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□きみのとなり
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夜中にふと目が覚めてしまった。
絵師として生きることを許された雅刀と一緒に全国を旅をするようになって数カ月。
夕暮れギリギリになんとかついた村で宿をとったのだけれど。
歩き疲れていた私たちはすぐに夕食をとり、先に戻っていた雅刀は私を待っている間にすでに眠ってしまったみたいで。
私も簡単に身支度をすませ布団に入った。
寝ていても私が隣に行くと腕を伸ばして抱き寄せてくれる、そんな無意識がすごくうれしくて。
雅刀の腕のあったかさに包まれる最高の幸福感の中ですぐに眠りに落ちてしまったらしい私は、早く寝すぎたせいで今になって目が覚めてしまい今に至るのだ。


あんなに早い時間に寝ちゃうなんて小学生以来だよ。
今いったい何時なんだろう??
夜明けにはまだありそうだけれど。
あまりにも早く寝てしまったせいか時間の感覚がうまくつかむことができなくて。
外を覗こうと雅刀の腕の中でモゾモゾと身を捩るけれど雅刀が目を覚ます気配は無い。
今は絵師とはいえ元軒猿なわけだから気配には敏感なのだけれど、今日は相当疲れているみたいで全然気づかない。
そりゃあ疲れてるよね。
ここ3日間、運悪く野宿続きだった私たち。
野宿になってしまう時雅刀は夜じゅう見張っていてくれている。
私に気付かせないようにか、私が眠るまではそんなそぶりも見せないのだけれど。
だからここのところ雅刀はほとんど寝れていない。
私が心配して聞くと面倒くさそうに
「大丈夫だ。
ちゃんと寝てるし、第一俺はそんなにヤワじゃない」
って言うけど、でも大丈夫なわけないよ。
私は知ってるんだよ、雅刀。
でもそれが雅刀の不器用な優しさだってことも知っているから。
「いつもありがとう。せめて今日はゆっくり寝てね」
と小さく呟いてほっぺに静かに口づける。
そして起きているときには絶対できないことをしてみる。
それは、雅刀の顔をしみじみ眺めること。
簡単なことのようだけど雅刀は照れ屋だからまじまじと見ることはなかなかできない。
以前も私が絵をかく雅刀を眺めていたら、
「そんなに見るな。」
と両頬を引っ張られた。
「いいじゃん、減るもんじゃないんだし。」
という私の反論もむなしく
「減るからやめろ。」
と一蹴されてしまったのである。
なので今日は千載一遇のチャンスなわけで。

髭が生えてて一見わからないけど、やっぱりまーくんの面影がある。
6歳も離れているのに生意気に私の事を呼び捨てにしていたまーくん。
いつの間にか(というか普通じゃありえないことだけど)9歳も年上になっていて。
背だって私より小さかったのに、今じゃ私をすっぽり包み込むほどたくましくなってる。
すこし肌蹴てしまっている寝間着から除く傷痕を見てドキッとする。
もちろん前にも目にしたことはあったけれど、ちゃんと見たのは初めて。
よく見ると大小さまざまな傷がある。
見ていて苦しくなってしまう。

これが雅刀の15年間なんだ、と思い知らされる。
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