main

□きみのとなり
2ページ/5ページ

私のこと助けようとして、飛び込んだ先に私はいなくて、たったひとりで、何もかもが違うこの時代に投げ出されて。
ひとりで心細かったよね。
たった10歳の男の子だったんだもんね。
わたしにとっては数カ月前のことだけど、雅刀は15年っていう歳月を過ごしてきて。
まーくんから雅刀になる間に失ったものは私が簡単に計りしれるようなものではない。
人を欺くこと、その手で人を殺めることがまーくんだった雅刀にとってどれだけ苦しいことだったか。
私が道鬼斎の忍びに弓を向けたときの雅刀の苦しそうな悲しそうな顔を今でも忘れられない。

でも一つだけ言えるのは、刀儀さんが雅刀を見つけてくれてよかった。
軒猿のみんなが、暁月たちがいてくれてよかった。
元の時代にいても誰もできなかったことをまーくんにしてあげてくれる、与えてくれる人たちがいてよかった。
家族になってあげること、仲間になること、そして仲間として必要とすること、を。
ねえ、雅刀。
私は何かあなたに与えられているのかな?
ぬくもりをもっと感じたくて雅刀にもっとすり寄ると、ちょっとだけ擽ったそうに眉を動かす。
けれどまたすぐに規則正しい寝息を立て始めた。

そしてふと。
綾姫や謙信様、暁月たち元気かな??
瑠璃丸君はりっぱな軒猿になったのかな??
越後で出会ったみんなのことを思い出していたらいよいよ眠れなくなってしまった。

夜明けにはまだ時間もありそうだしどうしようかな、と考えていると今日が満月だってことを思い出した。
月が明るいし中庭なら今出ても大丈夫だよね。
夜風にでも当たれば少し気分も変わってまた眠れるかもしれないし。
そう思ったわたしは雅刀を起こさないように気を付けながら布団を出る。
そして静かに扉を閉め、今度は宿の人を起こさないように静かに庭に出る。
庭に出てみるとやはりきれいな満月で。
満月の引力は強力すぎて動物を不安定にするっていつか本で読んだことがあるけれど。
ここまできれいな月ならば、不安定になってしまう気持ちも少しわかる気がするなと思う。
月の光が明るいこと、戦国時代に来て初めて知ったことのひとつ。
「今日は月のおかげで明るい」だなんて思ったことはなかったし、満月だろうと上弦の月だろうと特に気にも留めなかったけれど。
電気のないこの時代では満月の日と新月の日はとんでもなく違う。
そういえば弥太郎さんのおうちにお世話になっているとき、綾姫に和歌をたくさん教えてもらったけど、その中にも月のことを詠んだ歌がいっぱいあった。
今ならその理由もわかる気がする。


月を眺めながら、そんなことをとりとめもなく考えながらボーっとしていると突然腕を引っ張られ、後ろから何かに包まれた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ