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□始まる、その時に
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「い、いや違うのこれはね!!!」


と事情を説明しようと試みるのだが、秋夜の耳には入っていないようだ。
秋夜はくるりと起き上がり、私の顔の両横に手を置き、まるで覆いかぶさるような体勢になる。
そして真剣な顔つきで自分の額と私の額をくっつける。

「しゅ、秋夜っ!!!!!!!!!!!!」
思わず叫んでしまう。
今の私の顔はきっとりんごより赤い。
「なぜ、こんなになるまで俺を起こさなかった。御使い様、さっきよりもまた熱が上がった!」
少しの怒気を含んだ秋夜の声。
怒ったようなそれ以上に困ったようなその表情からすごく心配してくれているのがわかる、わかるけど…!
とりあえずこの状況をなんとかしなくちゃ!
誤解をとかなくちゃ!
近すぎる秋夜の顔にドキドキしすぎておかしくなりそうになりながら、両手で秋夜の体との間に少し距離をつくる。
秋夜は不思議そうにこちらを見ている。

「ち、ちがうの、聞いて秋夜!!!!
…あの、さっきからあの恥ずかしくて…その、ね?」
精一杯落ち着いて伝えようとするがやはりうまく言葉が出てこない。
秋夜はきょとんとしている。
まだ言わんとすることがよくわかってないみたいだ。

…異性として見られてないようで、それはそれで複雑だけど…
何とも言えない気分のまま私は続ける。


「いや、あのね、目が覚めたら秋夜が後ろから、あのその、ね、後ろから抱きしめてくれててね…。
あ、さっきまでは瑠璃丸君とお猿さんもいてまねっこしてんだけどね。
でもいなくてね、だからそのね、
なんていうかちょっとびっくりして恥ずかしくて熱くなっちゃってね。
それなのにさらに秋夜がほら、今みたいな状態になってるから、ね、ちょっと、なんていうかほら、恥ずかしくて、だからこんなに心臓がどきどき…みたいなね?」
最後のほうはほとんど聞こえるか聞こえないくらいの声で、途切れ途切れに伝える。
我ながら支離滅裂だ。


秋夜はというとだまって聞いている。
そして顔がみるみる赤くなり、私から飛ぶように離れるのはその10秒後のこと。

「す、すすすすすすすまない御使い様!!!!!
いや、その、あの、そんなやましい気持ちは…!」
と平謝りするのはさらに10秒後。
耳まで真っ赤にして慌てふためき、そばに置いてある薬の箱をひっくり返してしまったり、棚にぶつかった拍子に上から材料が落ちてきたりと大惨事になってしまった。




それからその日一日じゅう、ふとした折に自分の行動を思い出してしまうのか、薬を煎じている時も、なにか作業をしているときも、気づくと秋夜は静かに顔を赤くしていて。
私と目が合うと更に赤くなってすぐにそらしてしまうのだった。
にもかかわらずいつもよりなんだか目が合う回数が多いのが、なんだかうれしくかった。
口数は少ないけれど、言葉よりもわかりやすいその態度を、秋夜を私は少し理解できたような気がしてなんだか暖かい気持ちになるのだった。
そして今振り返ると、この日が私たちの恋が生まれた日だったように思うのでした。
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