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□幸せの痕を
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長く感じるHRがやっと終わると挨拶もそこそこに、私は教室を飛び出した。

新緑の綺麗さも、風の心地よさも今の私にはまったく感じられない。
私は怒っていたのだ、誰にかというと彼氏である元武田の軍師、山本勘助に。
遙かな時を超えて私にあうために生きぬいてきてくれた勘助に再び出会ったのは8か月前。
本当に会えるなんて。
信じてたけど、きっと会えるって信じてたけどやっぱり不安も大きかったから、出会えた時は今まで生きてきた中で一番幸せな瞬間だった。
きっと前世の私が、奏という名前を付けてもらったときも同じくらいうれしかったんじゃないかな、いや絶対負けないけどね!


って今はそんなことはどうでもよくて!!
私は怒っているのである。
その素敵な彼氏、山本勘助に。

学校をでて長く続く並木道を走る。
普段ならなんてことのない距離だけれど今日はすっごく長く感じてもどかしい。
短めのスカートを翻しながら猛ダッシュする私の勢いに、道行くの人々がびっくりしてみるけれど気にしない。気にしてられない。

走ること30分、やっと勘助のマンションについた。
勘助は明晰な頭脳と得意の弁舌を活かし、経営コンサルタントとして独立開業している。
と言ってもどんな仕事なのか私は詳しくはわからないけれど。
でも普通のサラリーマンよりは向いているような気がする。
上司にこき使われたり、へいこらするサラリーマンの勘助はちょっと想像できないから。


自宅兼事務所のマンションはこの地方で最高層なマンション。
無駄に高いマンションだからエレベーターが下に降りてくるまでも時間が無駄に長いわけで。
「…ハァ…待って…なさいよ、あの…ハァ…変質者め…」
エレベーターの扉に手を付き、待ってる間に上がりきった息をなんとか整えようとするけどなかなか治まらない。

ようやく来たエレベーターに飛び込むとボタンを連打する。
もちろんそんなことをしたところで早く着けるわけではないのだけれど。

永遠とも思われた上昇を終え勘助の家の階につくと、私はまたダッシュする。
手に持った合鍵をよく見ずにガチャガチャ差し込む。
普段は勘助がいつも学校なり家なりに迎えに来てくれるので一緒に家に入るからあまり合鍵を利用することはない。
そう、つまり今日は約束をしているわけではないのだ。
今日は部活のあとにナオミたちとの約束、そして明日からの土日合宿の支度があるから会えない予定だったのだ。
まあこうして結局すべてキャンセルすることになってしまったのだけれど。
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