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□幸せの痕を
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「勘助っっ!!!」


ちょうど電話中だった勘助は、突然ドアを開けて入ってきた私を見て少しだけ目を見開くがそれほど驚いた様子もなく、人差し指をたてくちびるに当てる。
かすかに微笑みをたたえているその姿は絵になるほどきれいで。
うっかり見とれてしまいそうになってしまった。

すると勘助は声を出さず唇だけを動かし
「もうおわる」
と言った。正確には言った、のだと思う。

とりあえずキッチンに向かい、冷蔵庫のミネラルウォーターをグラスに注ぐ。
ちょうど一気に飲み干したところに
「今日は来られないんじゃなかったのか。」
と、電話を終えた勘助がこちらにやってきた。
そして私を後ろから抱きしめ。
「そんなに息を乱して。
それほどまでに俺に会いたかったか、真奈」
と低く耳元でささやいた。

その言葉に私はドキドキし、その声に腰が砕けそうになるけど、負けない。

身をよじり手で勘助の胸を押しのけ
「違う!!!
文句があってきたの!!!」
なんとか平常心を保とうと頑張りながら私は言葉を放つ。

ほう、と勘助はいう。
愉しそうに片方の唇をあげて。

「私ね、今日プールだったの。
3時間目ねプールだったの。
昨日も言ったと思うんだけど。
プールだからね、着替えるよね、水着にね。」
勘助は楽しそうにただ聞いている。
小憎らしいほどきれいな顔で。
「なのにさ、あんなところにキスマーク付けるてるなんて信じられない!!」

あんなところというのは胸のふくらみの下。
ちょうど頂の下で、上からは死角で見えないところ。
なので私はまったく気付かなかった。
いつもの通り何も気にせず堂々と着がえていて、私の裸を見た友人たちに
「なにそれ!!??」
と言われてやっと初めて気づいたのだ。
私の胸を鮮やかに彩るその情痕に。
どうしたのって言われても私にも何がなんだかわからない。
軽くパニックである。
だが混乱する頭でも犯人だけははっきりわかっていて。
余裕そうな微笑みが脳裏に浮かび。
「あの変態ドS男がぁぁぁっ!!!!」

と、持っていたタオルを力任せに引き裂いた。

そして私の感情を逆なでするかのように、そのキスマーク話は瞬く間に学年中に広まっていったのだった。
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