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□不安なキス、繋がる未来
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チチチっという鳥の声で眠りから覚めた。
眩しい光を感じゆっくりと目を開ける。
今日は小春日和のようだ。
昨日までの寒さが今日は幾分か和らいでいる。
そのせいか隣からはまだ規則正しい健やかな寝息が聞こえてくる。
俺は上半身だけ起こし、茶色がかった髪をそっと撫でる。
少しだけ体を竦めるが起きる気配はない。
穏やかな寝顔をみていると幸せな気分が込み上げてくる。
今日は一日こうして二人で寄り沿っていたい、そんな気持ちになってしまう。









彼女が…、「御使い様」から「真奈」に変わって数日たった。
想いが通じあい、一緒に暮らすようになった後も今までの癖で御使い様と呼んでしまうことが多く、その度に彼女は頬を膨らませてしまうのだった。


そんなことがしばらく続いたある日。
とうとう怒りが頂点に達してしまったらしい。
いつもならしばらく時が経てば自然とまた笑顔に戻ってくれたのだが、その時ばかりはいつまで経っても膨れっ面のままで。


どうすればいいのか何を言えば良いのか無い知恵を絞ったが、どうにもわからなかった俺は愚直にも本人に聞いてしまった。

どうすれば機嫌を直してくれるのか、と。


すると彼女は俺に背中を向けたまま、

「じゃあ口づけして。」

とぶっきらぼうに答えた。


「く、くくく口づけ??!!!」
俺はまったく予想もしてなかった答えに驚き声が裏返ってしまった。
俺が情けない声を上げあたふたと狼狽していると彼女は


「ちゃんと口づけしてくれたら許してあげる。」


俺の方へ向き直りもう一度繰り返した。
今度は俺の目をしっかりと見つめながら。
自分の顔がどんどん熱くなってゆくのを感じた。

「ね、秋夜。」
彼女が距離を詰める。
目の前に彼女の顔がある。
彼女の唇から目が離せない。
その柔らかさを俺は知っている。
その甘さを俺は知っている。
その柔らかさを、甘さ知ってしまってから、俺はずっと触れたくて仕方なかった。
だが欲望のままに唇に触れてしまったら、俺は自分を抑えられるかわからなくて。
御使い様を傷つけてしまいそうで。


一緒に暮らしているとはいえまだ夫婦の契りを交わしたわけではない。
だから自分の欲望のまま軽はずみなことをしてはいけない…。
…いけない気がして。
だからずっと触れないでいた。

そんな俺に彼女は言う。
口づけをして、と。
徐々に近づく唇。
その誘惑に、負けてしまいそうになる。
ねえ、秋夜と彼女が俺の手を握りもう一度俺の名を呼ぼうとしたその時。


俺の唇は彼女の唇を塞いでいた。




久しぶりに感じた愛しい女性の唇の感触。
何度も何度も思い出していた記憶の中のそれより柔らかく、ずっと甘かった。
今きっと俺は情けない顔をしている。
恥ずかしくなって唇を離し、彼女を見ると。



彼女はまだ不機嫌そうな顔のままだった。
むしろ機嫌は先程より悪化したようにすら思える。



「み、御使い様?」
慌てて俺は聞く。
すると彼女は真剣な、でも今にも泣きだしてしまいそうな顔で







「足りない。

全然足りない。

そんなんじゃ足りない。

もっといっぱい、いっぱい口づけして、秋夜」
と言った。







そして次の瞬間俺は、
彼女の唇をもう一度奪っていた。
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