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□不安なキス、繋がる未来
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彼女の言葉に驚き顔をあげると、彼女はまだ仄かに赤さが残る顔でぎゅっと俺の手を握った。覗き込むように俺の顔を見ると
「秋夜、ありがとう。
口づけ、いっぱいしてくれて。
すっごく…嬉しかった。」

柔らかく微笑みながら、照れたように言う。
思わぬ言葉に驚いてしまう。

「秋夜は一緒に暮らしていても、あの日以来口づけもしてくれないし、御使い様って呼ぶし…。
だから私が勝手に思いが通じたと思ってただけで、実は秋夜は義務で一緒にいてくれるのかな、って最近すっごく不安だったの…。
私だけが好きなんじゃないかって」

彼女は少しだけ寂しそうな目をしながら言った。

…そんな思いをさせていたなんて…。

「だからね、さっき秋夜が、男の人みたいに、
…いや、いつも男の人なんだけど、なんていうかこう…いつもより、あの、そういうかんじで、私を求めてくれたのが、すごくうれしくて…。」
と、今度は照れながら言う。
俺は先程までの状態を思い出して、火がついたように顔が熱くなっていく。
俺の手を握る指に少しだけ力が込められる。


「私ね…。
秋夜がだんだんそういう感じに…なってきた時ね、
ひとつになりたい、って
秋夜とひとつになりたいって思ってたの。
もっといっぱいしてって思った時にね…
思い出したの。

今朝から月のものが始まっちゃってたこと…。
…私、夢中だったから、すっかり忘れちゃってたんだよね…。

だから秋夜が嫌だとか、そういうことではないの!
秋夜が私を求めてくれてることが、すっごく嬉しかった。
秋夜の事今までより理解できたような気がするし…
それになんだか…とっても気持ちよかったんだ…」
鼓動がどんどん速くなる。
今の俺の顔は誰にも見られたくない。

求めていないわけがない。
繋がりたいと、ずっと思っている。


彼女は俺の赤いであろう頬を撫でる。
あまりの熱さに驚いたようだがふっと柔らかく笑い、ちゅっと俺の瞼に口づける。
…俺はもう爆発してしまうかもしれない。


「誤解させてごめんね。
いっぱい口づけしてくれたから、御使い様って呼んだこと、今日は許してあげる。」

そして悪戯っぽい目で見つめ
「でも今度また御使い様って呼んだら、私出て行っちゃうからね?」
と言った。
冗談めかしたその言葉に、彼女の本音が垣間見えたような気がして俺は慌ててしまった。

嫌だ。
いなくなるなんて…。
俺はずっと一緒に…生きていきたい。


「もう二度と御使い様と呼ばない。
約束する。

だから…出ていくなんて言わないでくれ。」

俺は彼女の手をしっかりと握り、目を見つめ言った。
心からの願いだった。

そして、名前で呼んで欲しいという彼女の願いもきっと、同じくらいの重さをもっていた事に、俺はその時、ようやく気づいた。

俺の言葉を聞いた彼女は満足そうに笑う。
すごく嬉しそうな幸せそうな笑顔で。

「わかった。じゃあ約束。」

と言い、俺の唇に口づけた。
触れるだけの口づけ。
そんなことをされると…
またあの深い口づけをしたくてたまらなくなって。
俺は真奈の体を抱き寄せ、口づける。
薄く開いた唇。
舌同士が触れあう音が鼓膜を刺激する。
大きくちゅっという音をたて唇を離す。
名残惜しいがこれ以上続けていたら俺は完全に我を忘れてしまう。
それに俺には今、伝えなければいけないことがある。



「…不安な思いをさせてすまなかった。

俺は真奈が好きだ。

いつだって口づけたいと思っていたし…

許されるならば…もっと深く繋がりたい、と…思っている。」
そういうと真奈の顔は真っ赤になる。
その表情を見て自分の言葉の重大さに気付き、俺はまた赤くなる。


少しの間の沈黙の後、真奈は俺の手を取りそして小さく囁いた。


「…ねえ秋夜…
月のものが終わったら…すぐに…
今度こそ秋夜のものに…して?」


真奈の言葉に呼吸が止まりそうになる。


「…そ、そ、その、月のものが終わったら…ま、真奈を、抱いて、ひとつに、俺が、繋がって」

うまく言葉が紡げない。
ずっと望んでいたこととはいえ現実味を帯びてくると、先程見てしまった真奈の艶かしい姿が浮かんで俺の頭を支配してしまった。
あれを、俺が…と思うと嬉しさと恥ずかしさと…やっぱり嬉しさで、おかしくなりそうだ。

「ほ、本当に、俺でいいのか?」
混乱する頭でなんとか言葉を絞り出す。

すると真奈は微笑みながら俺を見つめ
「…秋夜とひとつになりたいの
秋夜じゃなきゃ、いやなの
早く、秋夜のものに…してね」
と言うと俺の胸に飛び込んできた。

その時俺がどんな反応をしたのか覚えていない。

気づいた時には、真奈が心配そうに俺の顔を覗き込み肩を揺すっていた。






その日を境に彼女は御使い様から、ただの真奈になった。

たった数日前の事なのになんだか思い返すととても遠い昔の出来事のように思える。

ひとつに…か。

遠くない未来に思いを馳せ俺は一人、照れながら微笑むのだった。
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