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□目覚めて、愛しさに触れる日々
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(嫌だ…あの人が、殺されるなんて…嫌だ…!!)




息が詰まりそうになって目が覚めた。
隣を見ると勘助が静かな寝息を立てている。
そっと手に触れて暖かさを感じる。
よかった…夢だった…
怖くてまだ呼吸が整わない。

久しぶりに奏としての夢をみた。
最近はまったく見てなかったのに。
昔は奏に嫉妬したりしたけれど今はもう大丈夫。
勘助と過ごす日々の中で奏の記憶も少しずつ薄れてきていたからもう見ないだろうと思っていたのに。


今日は学校帰りに勘助の家に来てそのまま泊っている。
夜ご飯を一緒に食べて、二人でテレビを見て。
寝る前に愛し合ってそのまま二人で眠ってしまった。
そんな何の変哲もない日。

勘助のベッドは二人で寝ても十分な広さで。
パジャマ代わりに纏っているシーツは私が動くとしゅっと音を立てる。
勘助は上半身裸のまま眠っている。
道鬼斎として人々に恐れられていた人とは思えないほど、穏やかな顔つきで。

勘助は夢を見ないって言っていた。
夢ですら思う人に会えないということはどんなに辛いことだろう。
どんな時間をたった一人で過ごしてきたんだろう。
寂しさに苦しんでいるうちに、寂しいと思う感情すらなくなってしまうものなのかな。
私にはわからない。
勘助が戦国時代から過ごしてきた450年はすごくいろいろなことがあったと思う。
激動の年月をこの片方だけの瞳で見つめてきた勘助。
少しずつ私に教えてくれるけど、450年の空白はそう簡単に話し尽くせるものではない。
戦国時代で別れた後も、さらにたくさんの孤独をきっと勘助は味わってきたのだろう。
知り合っては別れを繰り返す、そんな日々がずっと続いて来たのだから。



「どうした、真奈。
眠れないのか?」
天井を見つめながらそんな事を考えてぼーっとしていると、眠っていたはずの勘助の声がした。
いつもより少しだけかすれているその声。
びっくりしている私を見てふっと笑うと、勘助は肘を付き少しだけ上半身を起こした。


「ごめんね。
起こしちゃった?
眠ってたんだけどね、怖い夢を見て目がさめちゃったの。」

子供じみた理由が少し恥ずかしい。
黙って聞いていた勘助は小さく微笑んで私の頭を撫でる。

「夢だ。
もう大丈夫だから、安心しろ。」

ゆっくりと優しく言うその言葉にほっとする。
この世の何よりも安心できる、その声、その微笑み。
私はこの人のことが、本当に大好きだ。

そう思うと同時に不安になってしまう。
いつも与えてもらってばかりだ、奏の時も真奈である今も。

私はこの愛しい人に、何か与えられているのだろうか。

「ねえ勘助。」
「なんだ。」
「今、幸せ?」
唐突な質問に少しだけ驚いたように目を見開く。

「なんだ、突然。」
「だってさ、450年も待っててくれたんだよ。
奏を好きでいた時も含めたら1000年くらい。
それってすごいことだよ。
なのに。
なのにさ…」

涙が込み上げてくる。
心が過敏になっているのはきっと夢のせい。

「私は何もしていない、何もしてあげられてない。
だからなんか…」

と私が言い終わる前に、勘助は私の腕を引き抱き寄せた。
ふわりと勘助の香りがする。


「何を下らぬことを言っている。
朝、目が覚めると隣にお前がいる。
目覚めた瞬間からこの手でお前に触れることができる。
これほど幸せなことは、ない。」


勘助は言う。
とんでもなく優しい声で。
今まで我慢していた涙があふれでて、頬を伝いそして勘助の肩に零れ落ちる。

「ありがとう、勘助。」

なんて私は幸せなんだろう。


涙に気付いた勘助は少し体を離し、そして頬の涙をキスでぬぐうと。
私の瞳を見つめ優しく微笑む。

「わかったら早く休め。
明日も学校だから、といって俺の誘いを断ったのではなかったか?
なんなら今からもう一度交わるか?
俺は一向に構わんぞ」

と冗談なのかよくわからない冗談を言うと勘助はもう一度上半身を横たえた。
勘助なりの気遣いに私は少し笑ってしまう。

「わかった、もう寝るよ!」

慌てて私が横になろうとすると
「来い、真奈」
と勘助が微笑みながら腕を広げる。

私が飛び込むと勘助は私の体をぎゅうと抱きしめる。
勘助の鼓動を肌で感じて、なんだか今までの不安が全部吹き飛んでしまう感じがした。
嬉しくて幸せでいっぱいになって、私は顔の前にある勘助の胸や首にキスをする。


「拒む癖に煽るだけ煽るとは、お前も残酷な女だな。
早く寝ろ。
これ以上続けるのならばお前の意志など無視して無理矢理にでも抱くぞ。」

妖しい微笑みをたたえて言う勘助の手はすでに腰から下の部分をなぞり始めていて。
これ以上やったら冗談ではすまないと思い私は、
「わかりました、おやすみなさい」
と慌てて言い目を瞑る。
おやすみと言う言葉と共に優しい口づけが降ってくる。
勘助のぬくもりに包まれながらやがて私は幸せな眠りに落ちるのだった。









「朝、目を開けると一番最初にお前が映る…
想像していた以上に、幸せなことだ

この幸せのための450年だったのならば…
長くはなかったぞ、真奈。

また…明日な」






おわり
 

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