main

□冬はつとめて
1ページ/1ページ

「真奈」

「い〜や〜だ〜」

「いい加減支度を始めないと、間に合わなくなってしまう。」

「寒いんだもん。動けないもん。無理だもん」


冬のある朝。
その日は今年一番の冷え込みだと思われるほど寒くて。
現代でぬくぬく育った私にはヒーターもストーブもないこの時代の冬はかなり厳しい。
起きることは起きられても、布団の上から動けない。
座ったままずっと布団を頭からかぶってているのだ。

最近は、なんとか私から布団をはがそうとする秋夜と戦うことが毎朝の日課になっているのだけど。
今日は無理、本当に無理。
せめてもう少し、もう少し日が高くならないと、体温が上がらない限り活動なんてできない。

この布団がなかったら死んでしまうと思う私は、敵である秋夜に懇願する。

「ねえ、あと10分!
ううん、せめて5分でもいいから〜」

「だめだ。もうすぐ患者が来始める時間だ。
そろそろ準備しないと間に合わなくなってしまう。」
そんな無慈悲な言葉を放ち、秋夜は私から布団を奪おうとする。
私も負けてられないから布団の引っ張り返す。
私はとんでもなく必死な顔つきをしていたのだろう。

そんな私を見て秋夜は少し呆れた顔で言う。

「真奈、いい加減にしろ。
いつになったら布団から出るんだ。」

確かにいつもよりもうかなり遅いけど。
そんなこと言ったって寒すぎて体が動かないんだもの。

「もう少し体が温かくなったら出られる。
だから少しだけ待って。」

無駄とは思いながらも必死にお願いする私。
眉を下げてほとほと困り顔の秋夜に、私は少しでもこの辛さをわかってもらいたくて。

「あのね、本当に寒いんだよ、ほら。」

と言って私は自分の冷え切った冷たい手を秋夜の頬に当てた。
するとその冷たさに秋夜は一瞬びっくりしたようで、目を丸くした。

そして真剣なまなざしで静かに
「わかった。」
とうなづきながら言い立ち上がる。

わかってくれてよかった。
これでもうしばらくこの布団の中で体を温められる。
ほっとした私は隙間がないように布団の端と端を合わせなおそうとしたその時
後ろから布団ごと抱きしめられた。





「これで…少しは…暖かいか?」




ぴったりと密着する体。
背中に感じる秋夜の体温。
思いもよらなかった事態にびっくりする。
でもすぐにうれしさがこみあげて来て。
幸せな暖かさを感じて。
私は笑顔になってしまった。

「…前もあったよね。
こういうこと。
私が高熱出した時。」
秋夜は優しい、昔も今も。
あの時の事を思い出してクスっと笑ってしまう。
秋夜も思い出したのか、ふっと笑う。

「ああ、そんなこともあったな。

だが、あの時と今とでは…全然違う。」

照れながらしどろもどろに言う秋夜の腕に力がこめられる。


「何が違うの?」

と面白がって私が聞くと、後ろにいる秋夜は明らかに狼狽した様子で。

「…お前は真奈になった、

お、俺が…愛しく思う…存在に…」

とぎれとぎれに言う秋夜。
秋夜はかじかんだ私の手を後ろから握り、自分の体温を分けてくれる。
秋夜の体は温かい。
なんでこんなに温かいのだろう。
今まで凍えそうになっていた私の体はすぐに熱を取り戻していった。

「…秋夜、冷たいでしょう?
どうもありがとう。」

「…大丈夫だ。
徐々に真奈の手も暖かくなってきた。
よかった。」

秋夜の優しさと暖かさと、柔らかい思い出に包まれた私は今までの寒さなんて忘れてしまった。
我ながら現金なものだ。

「もう大丈夫。
体もあったかくなったしもうこれで動けるよ。
遅くなっちゃったから急いで支度しなくちゃね!
ありがとうね、秋夜。

私も、大好きだよ。」



そろそろ立ち上がらないといけない。
私のせいで時間を食ってしまったから、その分今から頑張らなきゃ。
私は自分に喝を入れ腰を上げようとする。
が、なぜか立ち上がれない。

秋夜の腕がまだ私をしっかり後ろから抱きしめているからだ。
「し、秋夜?」
びっくりして私が尋ねると。
秋夜は
「あ…あと5分だけ…。」
ととても小さな声で言った。

後ろに感じる秋夜の頬は熱い。
きっと耳まで真っ赤なんだろうな。
いつまでも照れ屋な秋夜をかわいいと思い笑みがこぼれてしまう。

秋夜の暖かさをまだ味わっていられることがうれしくて幸せで。
せっかくの私の決心はすぐに揺らいでしまった。

「…うん、わかった。
あと5分だけ…。」

と私は、私を抱きしめる秋夜の手に頬ずりし、そして秋夜へ振り返りちゅっとキスをする。
突然のキスに驚いた秋夜の体が少し硬くなり、腕に一層力が籠められて更に私たちの体はぴったりとくっつく。

そして私の髪に顔をうずめると、

「…午前の診療は…休みに…するか」

と、秋夜はとんでもないことを言い出すのだった。











おわり

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ