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□交差する不安の、その先にある光
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「その時の秋の顔と言ったらさ〜…」

夕食を一緒にとれることはそんなに多くはないが、そういう時、暁月はその日の任務であったことを話してくれる。
たいてい誰かがちょっとした失敗をして面白かっただの、行った街で見かけた面白いものだの、そんな明るい話しかしない。
今でも戦は続いていて、きっと血なまぐさい任務が殆どだと思う。
でもそういう話は私にはしない。
それが暁月の優しさなんだと思うけど。
その優しさが嬉しいような、少しだけ寂しいような複雑な気分だ。

「で、お前は今日何してたんだ?」
煮物をひとつ口に放り込みながら暁月が聞いてきた。
さっきまでの瑠璃丸君との会話が蘇り、焦る私。

「い、いやちょっと、いんげんを、先代の家で。」

相手にはよくわからないであろうような返答しかできない。

「そうか、よくわからんが地味な一日だったんだな。」
とケラケラと笑う。
人の気も知らないでと思いながらお茶をすする。

このままじゃ…いけないよね

「あのさ、暁月…。
実はさ、私…あのね…」

「ん、なんだ、便所か?
食事前に行っておけよな〜、まったく。」

「いや、そうじゃなくて…
あのね、ずっとね、考えてたんだけどね…」

「なんで俺がこんなにいい男か、ってことか?」

「いや、違くて。」

わざとらしい決めポーズをする暁月。
さっきから私の言葉の邪魔をする。
…まるで意図的にしているかのように。

「あのね、」

「あ、いけね!
秋にあれ貸したままだったの忘れてた。
俺ちょっと取りに行ってくる!!!
ごめんな、また後でな」

明らかに様子がおかしい。

目を逸らし立ち上がろうとする暁月を。

「待って!!!いかないで!」
私はおもわず大きな声で呼び止めていた。

今までとは違う私の声の響きに暁月の動きが停止する。
「お願い、暁月…聞いて…」
驚いた様子もない。
きっとわかってたんだと思う。
私が言いにくいことを伝えようとしていることを。

「な、なんだよ…。」

暁月は目を伏せたままもう一度腰を下ろす。
手持無沙汰なのかお茶に手を伸ばした。
私たちの間に気まずい沈黙が走る。
こんな二人じゃなかったはずなのに。
ちゃんと聞かなきゃ。
もうこのままじゃ…嫌だから。


「…あのね…ずっと考えてたんだけどね…」
思いきって話し出す。
すると暁月は小さくため息をついた。
「…あー。ついに、来ちまったか…
本当に…ははっ…」

自嘲めいた、なんとも言えない表情で呟く暁月。
残りのお茶を口に流しこむ。
暁月のなんとも言えない表情に、不安は徐々に確信に変わって行く。
だけど。
もう後には下がれない。
聞くしかない。
ずっと気になってたこと。





「暁月は私の事…女として…好き?
つまり…抱きたいとか…そういう対象として…見てる?」





すると。
ぶはぁっと暁月はお茶を勢いよく吹き出す。
「…っな、ななんてことを言い出すんだ、お前は!!??」
暁月は咳き込みながら言う。

「私ずっと思ってた。

あのとき押し問答みたいな感じで、その場の雰囲気でうっかり好きだとか言っちゃったんじゃないかって、暁月は後悔してるんじゃないかって。
だからずっと心配だった。
暁月を困らせることしかできないこんな想いなんて、伝えないで、そのまま終わらせた方がよかったんじゃないかって」


言うだけ言うと私は暁月のこぼしたお茶を拭こうと近くにある布に手を伸ばした。
その時。
暁月の手が私の腕を掴んだ。


「…お前は後悔してるのか」

いつもの暁月より低い声に驚いて顔を上げる。
私の目に映った暁月は、寂しそうな苦しそうな何とも言えない表情をしていた。

「え…」
「お前は…ここに俺といること、後悔してるのか、と聞いているんだ。」


暁月は心なしか泣きそうな顔をしていた。
その表情を見て私は今までの思いが溢れだしてしまう。

「後悔なんてしてない!

だって大好きだもん、暁月の事!

好きで好きで大好きでどうしようもなくて、だからここにいるんじゃない!

でも一緒に暮らし始めても何も変わらない。

昔のまま、ケンカ友達みたい。
だから…だから…私一人がもっと近づきたいなんて思ってるみたいでバカみたいって」

溢れだした言葉は暁月には伝わりきらなかった。
私が言い終わる前に暁月は私の腕を引き寄せ、
そして唇を重ねた。
暁月らしい粗野なキス。
色気のない、無骨なキス。
ちゅっという音させて唇を離すと、暁月はまっすぐ私を見た。
その目は真剣で少し熱を帯びている。

「好きじゃなきゃ、こんなことしたいと思わない。」

そしてもう一度キスをする。
それは今までした2回とは違う、キスだった。
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