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□笑顔が向かう先
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「御使い様、これ甘くておいしいよ。
こっちで一緒に食べよう!」

「わーい!!ありがとう、瑠璃丸君!!」

…。

「御使い様、そこは道がぬかるんで危のうございます。
どうぞ、御手を。」

「…うん、ありがとう…翠炎」

……。

「お前間抜けだからな〜!
転んで大騒ぎしても助けてやらねえぞ」

「うるさいなー、暁月になんて助けてもらわなくたっていいですー!!」

………。

「もし転んで怪我をしたとしても俺がついている。
安心しろ、御使い様。」

「いつもありがとう秋夜、頼りにしてるよ。」

「……っ!!」


……おいおいおい!!

なんなんだこの有様は。

御屋形様に他国での任務の報告に上がった小島様の屋敷で、俺が見たもの。

それは

軒猿(俺以外)と真奈の、とても仲のよさそうな姿。
俺が任務で少し空けている間に、なんでこいつらこんなに真奈と仲良くなってるんだ。


妹がいたせいか、女の扱いが上手い翠炎
男とか女とかあまり意識しなさそうな暁月
将来が怖い天然タラシみたいな瑠璃丸


…だけならまだしも


「……頼りに…してる…ふふっ」
…あの秋夜までが。

秋夜はさっきから頬を赤らめながらずっとぶつぶつ言っている。
たまにふっと笑うのが…少し気持ち悪い。



いやいいんだ。
あいつが、真奈が誰と仲良くなろうと。
別にうらやましいとかそんなんじゃない。
こんな時代に来てしまって心細い思いをしているだろうから、あいつらと仲良くやってることはいいことなんだ。




だがな。




「ああ!雅刀お帰り〜。」
「おお帰ったのか、お疲れさん!!」
「お帰りなさい。御屋形様は今小島様とお出かけなので、ご報告は夕方過ぎに伺うといいですよ。」

俺の存在に(ようやく)気付き、こっちへ駆け寄る仲間たち。


あいつは…というと、その場を動かずこちらをちらっと見ただけで、俺と目があったらすぐに目を逸らした。



…なんなんだ…この態度の差は。

いや別にいいんだ。
決して全然別にうらやましいとか…そんなんじゃないんだ。
…最初に壁を作ったのは俺だからな。



だが…なんだか…
モヤモヤする。




「ああ、今帰った。
さすがに疲れたから少し寝る。」

このモヤモヤは疲れてるからかもしれない。
俺は皆にそれだけ言うと、一人家に向かった。










だれもいない静かな家。

ごろんと、縁側に横になる。
陽が暖かくて気持ちいい。
しばらくごろごろとしているが…。



…眠れない。
体は相当疲れているのに、頭がさえて眠れない。
目を瞑ると、さっき見たあいつの姿がちらつく。
あんな…笑顔を振りまいて。
昔は…
あんな笑顔、俺にも向けてくれてたのにな。


「これが、いまの現実…か。」


会いたかった真奈に、会えたのに。
こんなありえない奇跡が起こったのに。

何もできない、状況。
何もできない自分自身。
何もしてはいけない、真奈のために。

会いたかった、ずっと。
なのに。
優しい言葉一つ、かけられない。
笑顔も見られない。

嫉妬…?





そんなことをぐるぐる考えてたら、徐々に眠気が降りてきて…
…俺はいつの間にか、眠っていた。












「まーくん、どうしたの?
そんな顔して。
何か嫌なことでもあった?」

真奈がそこにいて。
何もかもがあの頃のままで。
真奈は俺をぎゅっと抱きしめる。


「寂しくなったら、指笛を吹いて。
いつでも私は、傍にいるからね。」

花のように笑う真奈。
俺がずっと、ずっと、見たかった笑顔。
うれしくてうれしくて、
ぎゅっと抱きしめようとすると、

ふうっと真奈の姿が風に吹かれるように遠くなる。
笑顔のまま、遠くへ。

俺は焦って手を伸ばすが、届かない。


やっと…あえたのに…
…いかないで…



…行くな…!


「真奈っ!!!!」

自分の声で目が覚めた。
手は何かを求めるように虚空をさまよっていて。
とめどない汗が、額を流れてゆく。
どれくらい眠っていたのか。
空がもうオレンジ色になっている。



「…夢、か。…真奈。」

もう一度会いたくて、そっと呟く。
あの笑顔に会いたくて。



その時ふと気配を感じて振り向く。



するとそこには、洗濯物を抱えた真奈がいた。
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