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□君にできないこと、君にしかできないこと
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「…ごめんっ!秋夜、待った??」
「いや、俺も今来たところだ。そんなに急がなくても大丈夫だ」


やっと着いた屋上。
今日は気持ちのいい青空。
息が切れている私に秋夜は優しく言う。



「私が嫌なのっ。」


秋夜と私は一年前から付き合っている。
理系の秋夜と文系の私はクラスも違えば校舎も違くて。
同じ学校にいるのに会う機会はほとんどないという近いのに遠距離みたいな感じ。
だからこの昼休みは、二人でいられる貴重な時間なのだ。


「ごめんね、4限視聴覚室だったの。
本当にこの学校校舎広すぎだよ。
しかもねダッシュしてたら、高坂先生にぶつかっちゃって!
『また貴様か!』って怒られて更に余分な時間を食っちゃったの。
いいじゃないね、少しくらい走ったってさー。」

「…真奈のダッシュは、少しとは言わない。」

秋夜はふっと笑う。
寡黙な彼のかわいい微笑みを見られるのは彼女の特権だ。
ささやかなことだけどとっても嬉しい。



「さあ、食べよう!!」

私はギンガムチェックのお弁当の包みを開ける。
今日のお弁当はお母さん特製のサンドイッチ!
秋夜は購買で買った焼鮭弁当。


二人並んで壁に寄りかかり、もぐもぐと食べる。
お昼までに起こった事をお互いに話しながら。
といっても話すのはほぼ私で、秋夜は聞き役なんだけど。
私のとりとめのない話を、秋夜はしっかりと聞いてくれる。
卵焼きとハムサンドを交換したりしながら私たちの昼食は穏やかに進んで行く。




「ごちそうさまでした!」

昼食を食べ終わりお弁当箱を片付ける。
秋夜は初夏の爽やかな風を感じて気持ち良さそうに寛いでいる。

いつもはこの後二人でおしゃべりをしながら過ごすんだけど、今日はちょっと違う。
私はおもむろに鞄から小さな袋を取り出した。


「今日はね、スペシャルなものがあるんだよ〜秋夜くん!」

「スペシャルなもの?」

頭に?マークを浮かべている秋夜。
いい感じに興味をひいている。そして私は袋の中からおもむろに購買の幻のデザート“毘沙門天プリン”を取り出す。


「じゃっじゃーん!!!
見てみて。
今日ついに手に入れたんだよ、幻のこのプリンを!!!
この自慢の健脚で!」

私はぽんっと脚を叩きながら
誇らしげに言った。


「……そっそれは…っ!」

秋夜の目が輝く。
秋夜はこう見えて甘いものに目がない。
だけど甘いもの好き、というのが恥ずかしいらしく、自分ではなかなか買えないみたい。

コンビニにとかでもスイーツ売り場をじーっと眺めるものの
「……。」
と、悲しそうな顔で立ち去るのだ。


「すごいでしょ!!幻のあのプリンだよ!!一個しかなかったんだけど…
秋夜も一緒に食べるかなと思って、ほら!」

購買のおばちゃんに頼んでスプーンを2つ貰ってきた。

「…すまない。
ありがとう、真奈
とても…嬉しい」

秋夜の顔がほころぶ。
すごく嬉しそうな笑顔に私まで笑顔になってしまう。

「ふふっ!
頑張った甲斐があったよ。
これを買いに行く時に隣の席の暁月と競争になってね。
二人で猛ダッシュしたんだけど、ほぼ同着!
ラスト一個だったからそれはもう死にもの狂いだったよ。
最後の方はもう掴み合いみたいな感じ。
結局私が打ちのめしたんだけど『お前それでも女かよ、かわいくねー』
とか言われて。
失礼な話だよね」

私は蓋をあけ、蓋の裏についたプリンを丁寧に取りながらプリン入手までの経緯を話す。

暁月は中学からずっと同じクラスの腐れ縁。
私の腹を立てさせることに関して天才的。



「これでよし。さあ食べよう!」

準備を終え、さあ食べようとふと秋夜を見ると。
心なしか表情が陰っているように見える。

「ああ!
ごめん早く食べたいよね!!
はいこれ秋夜のスプーン。
お先にどうぞ。」

長々と武勇伝を語りすぎて焦らしちゃった。
そんなことより早く食べたいよね。
はいっ、と私はプリンとスプーンを秋夜に渡す。


だけど秋夜は、受け取らない。


「秋夜?いらないの?」
と言うと。
「いる。」
と短く答える。

「じゃあほらどうぞ。」
よくわからないままもう一度秋夜に渡そうとする。
秋夜は、やはり受け取らず首を振る。


「…真奈が先に食べてくれ。」
「秋夜?」
「いいから。」

秋夜にしては少しだけ荒い語気。
先に食べるのは申し訳ないから早く食べろって事かな?

ふと時計を見ると休み時間も少なくなってきていたし、とりあえず私が食べることにした。


「じゃあ遠慮なくお先にいただきま〜す!」


私はプリンをひとくち掬って口に入れる。

甘くってクリーミーで濃厚ですっごくおいしい。
人気な理由がわかる!


私が食べる姿をじっと見ている秋夜。
ああ、秋夜も食べたいよね!

「めちゃくちゃおいしいよ!秋夜も食べてごらん」


もうひとくちだけ口に入れて、秋夜にプリンを渡そうとした、その時。




秋夜は私の唇に、ちゅっと口づけてきた。
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