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□FROM FAR DISTANCE
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真奈へ


元気か?
風邪などひいていないか。
そちらはもう大分寒いのだろうな。

…俺はなんとかやっている。






真奈。
今回の事は…すまなかった。
俺が弱いせいで
直前まで、真奈に旅立ちを告げることができなかった事
申し訳なく思っている。

こんな事を突然何の前触れもなく直前に聞かされたら
泣き出してしまうのも道理だ。




あの日、真奈が泣いているのを見て
俺は何も…言ってやれなかった。

口に出してしまえば、
せっかく固まった決意が
揺らいでしまうとわかっていたから。
真奈を抱きしめてしまえば
俺は旅立つことが
できなくなってしまうから。






恥ずかしい話だが
自分が決めた事だというのに
真奈が側にいてくれたら、と
何度思ったかわからない。






真奈が隣にいない世界は
どこかに色をなくして来てしまったように、
そんな風に見える。




朝起きて、一番に思い出すのは真奈の笑顔
眠りに落ちるその時まで、
頭に浮かんでいるのも真奈の笑顔だ。

色彩無く過ぎて行く時間の中
思い出の中の真奈だけが、彩りを持っている。





こちらでの生活は甘くはない。
理想と現実は、やはり違うようだ。
真奈と離れてまで得ようとしたものに
どれほどの意味があるのか
わからなくなってしまう事もある。



だが、自分で…選んだ道だ。
俺はやり遂げてみせる。




ここは綺麗なところだ。
いつか…この町並みを
真奈と一緒に見たい。




真奈。
自分勝手な願いなのは百も承知だ。

だが…
必ずお前の元に帰るから
どうか…待っていてほしい。




少しでも想いを伝えたいと思って
ペンを取ってみたのはいいが、
やはり慣れない事はするものではないな。
乱文になってしまった。
…すまない。


だが…もし、
こんな手紙で良いというのならば…

…また書きたいと思う。




日に日に寒さを増してゆくだろうが
どうか体にだけは気を付けてくれ。



以上だ。



12月20日(月)  秋夜







水曜日、真奈は手紙を持ってきた。
それは、朝届いていたという秋夜からの手紙。
こいつらは同じ日に、お互いに手紙を書いていたらしい。
会えない相手への想いを。




嬉しそうに読む真奈が
徐々に目を潤ませ、涙を流す。




そんな姿を見て。



俺の心にずっと突っかかっていたモノが取れた。
心にずっと渦巻いていた
この違和感の正体に
ようやく、俺は気づいた。






自覚してみればとても簡単な事なのに
今までずっと気づけなかったのは







それがあまりにも…自然すぎたから。





…俺が感じていたこと。
俺がこいつに、言うべきこと。
伝えなきゃいけないこと。






秋夜の手紙をまだ眺めてる真奈に俺は思いきって声をかける。






この心に芽生えた思いを、
確かめるために。
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