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□Don't Know Why
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「真奈ー。
本棚の参考書借りるぞー」

期末テストが近くなってきたある日の放課後、俺たちは真奈の家で一緒に勉強していた。
真奈とは中学の時に出会い、ずっとケンカ友達だったが…。
なんつーか…。
気づいたら、なんか好きになってて。
向こうも、まあ…好きでいてくれたようで。
気づいたら、いつも一緒にいるようになってた。


「……E=mc2…?
…なんだこの奇怪な文字列は。
あ、うん。勝手に取って」

文字の解読に苦戦してるらしく、面倒くさそうに答える真奈。
物理の時間寝てたもんな、コイツ。

「おう、勝手にとるぞ」

真奈の適当な了解を得た俺は本棚から目当ての参考書を取り出す。
すると何かが一緒に落ちてきた。

「ん、なんだこれ」

それは、一冊のノート。

「だーーーーっ!それはダメっ!」



俺が拾って中を見ようとしたその時、今まで集中してたはずの真奈が、血相を変えてこちらにやって来た。

「なんだよ、その慌てようは?!
そんなに大事なのか?」

「い、いいの!
なんでもないのから!
本当に気にしないで!」

ほら早く返して、と手を差し出す真奈。
その異常な慌てっぷりが面白くて。
丁度勉強にも飽きだしていた俺は、ちょっと真奈をからかってみることにした。
一番後ろの白紙のページを開き
読んでるフリをする。
わざとらしい真奈の声マネ付きで。
「えーと、なになに…
『私、暁月の事が好き、大好きなの!!』ってか。
おいおい参っちゃうぜ〜」


…いや…我ながらイマイチだ。
きっと「あんた、自分でやってて恥ずかしくないの?」ってなかんじで冷たく流されるだろう…
じゃあ次はポエムでいくか…
真奈の冷たいリアクションを覚悟しながら、早くも次の手を考えていた。

ところが…
いくら経っても真奈は何も言ってこない。
ただ黙って俯いている。
「…あれ、真奈?
…おーい、真奈ちゃーん?」

俺は心配になって呼びかける。
一体どうしちまったんだ?
すると微かに真奈の肩が震え出した。

「・・・ひどいよ、暁月。
見ちゃダメって言ってるのに何で見るの?」

「へ?」

「ダメだって言ってるのに何で見るの〜!!」

ようやく顔を上げた真奈の顔は赤く、今にも涙が溢れそうだった。
こんな真奈は今まで見たことがない。
泣き出してしまいそうな真奈を、見ていられなくて…俺は…
…俺は思わず真奈を抱きしめた。

「ごめん、真奈違う!!
読んでない、ほんとに読んでない!!
適当に言っただけなんだ!!
俺が見てたのは一番最後の白紙のページだ!!
だから本当に読んでない、信じてくれ」

俺は開いていた白紙のページを見せ、証明する。

「…ほんとに?」

「ああ、本当だ。
だから頼むから、泣くな。
泣かないでくれ。
…お前の涙は見たくない。」

「…本当に本当?」

「ああ、本当だ、俺を信じてくれ」

ずずっと鼻をすすりあげる真奈。
不謹慎だが、そんな姿を見てかわいいと思ってしまう。

「…そっか。」

小さく呟くと、堅かった真奈の体から少しだけ力が抜ける。
良かった。本当に良かった。

「真奈、ごめんな。
俺、何も知らなくて…」

真奈の柔らかな体は力を入れてしまえば壊れてしまいそうで。
俺はこんなにか弱い真奈を傷つけてしまったのかと、罪悪感に襲われる。
同時に愛しさが体中から溢れ出して。
俺は自分の額を真奈の額にくっつける。

「だけど…なんだな、なんつーか・・・
照れくさいけど、ちょっと嬉しいもんだな、こういうの。
お前が・・・俺を想って、なんかこう、日記とか書いてくれてるなんてな…」

申し訳ないアクシデントを起こしてしまったが、真奈の想いを知ることができて、とても嬉しくて、幸せだ。
なんて柄にもないことを言っている自分が照れ臭くて、それを隠すように頭をポリポリと掻いた。

「…ありがとうな、真奈。
俺もお前の事が大好きだ。

ずっと好きなんだ、お前だけが…」


今回のことを通じてよくわかった。
お前の気持ちも、俺の気持ちも。
だから想いを伝える。
普段はちゃんと言えない
この想いを。

俺は真奈の頬に手を添えてゆっくりと唇を近づける。
たった数センチのなのにやたら長く感じられるその幸せな距離。
そして俺は目を閉じる。

ーー真奈だけを
感じられるように―――


























・・・ぷっ・・・・








・・・ぷ?




















「……ぷぷぷふふふふっハハハハっ!!!
もうダメ、我慢できない!!」

キスまであと3pというところで突然吹きだす真奈。

「…へっ??」



「ひーーーっ!!
おっかしい!!!!!
バっカじゃないの?
そんなこと書いてませんー。」


はっ?
突然の出来事に頭がついていかない俺は、
ただただポカンとしている。



「ほら見て見て!!
これはね、中学の時の数学のノート、
中身は見事に因数分解だらけでーす!!」

真奈は俺の手からノートを取り
ペラペラとめくると。
そこには。









…見事に因数分解しか書いていなかった。




「いやー私苦手だったんだよねー、因数分解。
だからよく補習させられてたじゃん?
その時のノートがこれだったんだ」


自分の顔がどんどん熱くなってゆくのがわかる。

うわ、恥ずかしい!
俺めちゃくちゃ恥ずかしい奴じゃん!!

「は、はあ??!
なんだよ!!??
じゃあなんでそんなに見られんの拒んだんだよ、お前!!!!」

「え?
×ばっかりだったから」






…ああ…ほんとだ。
そういうことか…

…なんだよ、この悲しいぬか喜びは。



「いやー、暁月君
…まだまだだね!」

…真奈の爽やかな笑顔が憎らしい。





「あ゛ー…っ!バッカみてえ、俺!
あーもう、ちょっとコンビニ行ってくる。」

このこっぱずかしさからなんとか逃れたくて
なんとか心を落ち着けたくて
コンビニに行こうと勢いよく立ち上がる。


「…待って暁月!!!」


そんな俺の手を
真奈がぎゅっと掴んだ。
その表情は物言いたげで
その目は…真剣だった。


「…な、なんだよ。」


なんだか照れくさくて俺は目をそらす。
いいよ、今更フォローとかしてくれなくて。











「…なんかチョコ買ってきて☆」

「うっせーよ!お前は因数分解でもしてろよ!!」


ウヒヒと笑う真奈にそう言い残して、
俺は何とも言えない悲しい気分のままコンビニまでダッシュするのだった。






































「ああーびっくりしたーーーーー」



―どうしよう、暁月が大好き。
何をしててもどんな時も、暁月を目で追っちゃう。
頭の中が暁月の笑顔でいっぱい。
でも言えない。
仲のいい今の友達って関係すらなくなっちゃったら、私生きていけないもん……ー



因数分解の書いてあるページを数枚めくるとそこには。
まだ片思いだったころの、私の想い。
…暁月への想いでいっぱいの日記。

「良かったバレなくて…!
我ながら名演技…!
あーまだ心臓ドキドキしてる…」



片想いの頃の日記ほど見られて恥ずかしいものはない。
暁月ぜーったい調子のるし。
さすがにちょっと可哀想なことしちゃった気もするけど
これだけは教えてあげられない。
…大事な思い出、だからね。


「それに…あの頃より今の方が
ずっとずっと…大好きだよ、暁月」


さっき暁月が出て行ったドアを眺めて呟く。
早く帰ってこないかな、そう思いながら。





「ふふふっ…
それにしてもこんなに簡単に騙されるなんて…
暁月ってば本当に、まだまだだね」
 

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