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□メリークリスマス!
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おうちまでの道を歩く。
翠炎は私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。

「寒くないですか御使い様。」

「ちょっと寒いけど、大丈夫だよ。」

「今日はとても楽しかったです。」

「私も楽しかった!
まさかこの時代にXmasパーティができるなんて」

「ぱーてぃも楽しかったですが、
私は貴女と二人だけになれる、今が一番楽しいです。」


ふわりと微笑む翠炎に
どきどきしちゃう。


「…ありがとう。」

たわいもない話をして歩く私たち。
あと少しで刀儀さんの家についてしまう。

私たちはよく一緒にいるようで
その時間の多くは私の警護と手習いだから
純粋に二人でいられる時間と言うのはあまりない。

なんで…もっと一緒にいられないんだろう。

そんなことを考えて寂しくなってしまう。


すると突然横を歩いていた翠炎の足が止まる。

「翠炎?」

気になって振り向こうとした瞬間
体が何かに包まれた。

それは翠炎の腕。
その腕は私を後ろから抱き締める。
とても優しくて、強い力で。

「す、翠炎?!」

「御使い様。
どうかそのままでいてください。
少しの間だけどうかこのまま…」

耳元で聞こえる翠炎の声は
いつもより感情を含んでいて


「寒く…ないですか。」

「ううん…すごくあったかい」

愛しさでいっぱいになる。

「御使い様の時代では
今日は想う者同士が一緒に過ごすのがしきたりと伺いました。
だから今、貴女と一緒にいることができて
とても嬉しいです。」

翠炎の身体のぬくもりと言葉に幸せな気持ちがあふれ出して。
私はそっと目を瞑る。

すると翠炎が私を抱きしめる腕にぎゅうっと力を籠める。
線が細いけれどやはり翠炎も男の人だと思い知らされる。


「御使い様。」

「…なあに、翠炎?」

「私は酒に酔ってしまったようです。
だからここから先は、
どうか血迷った者の言葉としてお聞き流しください。




御使い様。
私は貴女を先代の家になどお送りしたくない。
できることならこのまま私の家に連れ帰って…
…私のものにしてしまいたい。
そう願って、しまっています。

過ぎたる願いだとはわかっております。
私などが願うには不相応な願いだと。
でも、願わずにはいられないのです。

申し訳ありません、御使い様。」

耳元に響く翠炎の声。
普段は自分のために何も願わない
そんな翠炎が
初めて見せてくれたその願い。その願いの中に私が居られた事が
嬉しくて、すごく嬉しくて
涙があふれてくる。


「ううん、とってもうれしい。
私も…帰りたくないって思ってた…

想いをありがとう、翠炎。」


「…御使い様…!」

私の言葉に翠炎の力が緩んだ。
その隙に私は翠炎に向き直る。




暗黙の了解のように近づくお互いの唇。


これから先何が起ころうと
今だけは全てが許される、そんな気がして。


私たちは過ぎてゆく時間を惜しむように、
何度も何度も口づけを繰り返す。

翠炎の唇からはお酒の匂いなんてしなくて

翠炎のその弱さを、その優しさを
私は心から愛おしく思った。
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