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□結ぶ、しあわせ
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「うわーすっごい人だね!」

今日は元旦。
私と翠炎は初詣に来ています。
寒いけど空は晴れ渡っていて雲一つない。

「そうですね。
このあたりの人たちの氏神様ですから。
やはり元旦にお参りを、と思われる方が多いのでしょう。」



この神社には毎年お参りに来ているけど、
好きな人と一緒に初詣に来るのは初めて。
新年の始まりを大好きな人と迎えられるってすごく幸せ。



「さあ、私たちも行きましょう。
真奈、はぐれないように。」

はい、と差し出される手。
優しく微笑むその笑顔。
たったそれだけの事なのに、
心が暖かくなる。






「その晴れ着、本当によく似合っていますね。」

「…ありがとう。
でも翠炎さっきからそればっかり!」

「何度だって言います。
だって本当に素敵ですから。」

晴れ着姿を何度も何度も褒める翠炎。
とっても嬉しくて、ちょっと恥ずかしい。










参道の横には縁日みたいに出店がたくさん出ている。
あんず飴、りんご飴、たこ焼き、わたあめ、りんご飴、りんご飴…
見ているだけで楽しくなる出店。


慣れない下駄とお祭りのような雰囲気に気を取られて
足元にある石に躓いてしまう私

「…っと、危ない。
大丈夫ですか?」

そんな私の手をぐいっと引き寄せる翠炎。

「どうもありがとう…」

「いいえ、大したことないです。

でも真奈、
出店もいいですが
ちゃんと前を見て歩かないと転びますよ。

りんご飴は帰りに、ね?」


…なんでりんご飴が食べたいってバレてるんだろう。


「ふふっ、さっきからりんご飴りんご飴って独り言が聞こえてましたからね」


「えっ?!」


「本当に、貴女は目が離せないです。」
くすっと笑う翠炎。
少し困ったように優しく髪を撫でる様は
まるでお兄さんのようで。

…なんだかちょっと複雑な気分になります。











混雑する参道を歩くこと10分。
ようやく私たちが参拝する順番が回ってきた。
今年は奮発したお賽銭を投げて手を合わせる。


100円分を充分に祈りきり、満足して顔を上げると
隣でそんな私を翠炎が笑って見ていた。


「ふふふ、随分熱心に祈ってましたね。
何をお願いしてたんですか?」

「…内緒だよ!
翠炎は何をお願いしたの?」


他の人には言えても
本人に言うのは恥ずかしいよ。



―翠炎に似合う大人の女性になれますように
ずっと一緒にいられますように―


なんて。



「じゃあ私も内緒です。

どうやら向こうでおみくじが引けるようです。
運試しに行きましょう?」










ここのおみくじはかわいいお守りが付いているから大人気で
おみくじ売り場はとんでもなく混んでいる。




「…よしっこれだ!!!」
周りの人が少し引くくらい掌に全神経を集中させて勢いよく引く私。
そのおみくじは、










…末吉。


そこには…
…なんというか
イマイチな言葉たちが羅列されていてた。
商売 控えよ
旅立 延期せよ
探し物 諦めよ




……。


…い、いいもん、そこらへんは。
一番気になる項目は恋愛だから!!
一縷の望みをかけて恋愛の項目を探すと、そこには…







……ああ神様…






新年早々そんなに人を凹ませてどうするんですか…。
なんとも残念なおみくじに項垂れる私。









「真奈、おみくじどうでし…

…あまり良くなかったみたいですね。」


私の顔を見てすぐに状況を呑み込んだ翠炎。

「…見てこれ。
…お正月からなんだか悲しい気分…」


手渡したおみくじを眺める翠炎は苦笑い。


「…ふふっ、新年早々これでは確かに悲しくなってしまいますね。」

「…ひどいよね。
特に恋愛が…」


「でも真奈、これをみてください。」

翠炎は私に自分のおみくじを手渡す。

そのおみくじは大吉で。
私のおみくじとは違って
前向きな言葉たちがいっぱい書かれていた。


「…いいなあー。」

仕方のないことだとは分かっていながらも
やっぱりちょっとうらやましくて
少しふてくされながら
翠炎におみくじを返そうとすると。

「ほら、真奈。
ここです、ちゃんと見てください。」

私の背中をやさしく抱きながら、
翠炎はおみくじの、
ある部分を指でさす。

「見てください。
恋愛 今の相手が運命の相手 

ね、これは真奈の事でしょう?」


そういって翠炎は微笑む。
それは固くなった気持ちが溶かすような
そんな微笑みで。

「…ほんとだ…」

「それにほら、願い事という項目。
必ず叶う、と書いて有ります。
…だから何も心配しなくて大丈夫です。

よくないおみくじは枝に結ぶといいんです。
神様にちゃんと届くように、
一番高い枝に結びましょう、ね」
翠炎は私の頭をそっと撫でる。
翠炎が大丈夫って言ってくれると
本当に大丈夫な気がして、
すごく安心する。


「このおまけのお守り、
私のお守りと交換してくれますか?
私が近くにいられない時も、
貴女を守れるように。
貴女が寂しくならないように。
そして何より
貴女に会えない時に
私が寂しくならないように。

…いいですか?」


「…うん、ありがとう。」

私たちはお互いのお守りを交換する。
大好きな気持ちがいっぱい溢れだして
私は翠炎に抱きつく。
子供だと思われても、いい。



抱きしめ返してくれる
その胸は温かくて
その腕は優しくて
世界中で一番安心できる場所





「さあ、早く帰りましょう。
家で一緒に温かいお雑煮食べましょう。」

「うん!また寒くなってきたもんね。」


「それに、その晴れ着。
似合っているからこそ
誰にも見せたくないんです。
貴女を…隠してしまいたくなる。」

翠炎は私の耳に口を寄せて囁く。
どんどん顔が火照ってゆくのがわかる。


「さあ急いで帰りましょう。」

さっきと同じように差し出される手をしっかりと繋いで私たちは元来た道を戻ってゆく。


「真奈、今年もよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」


改めて挨拶すると気恥ずかしいけど、
そんな事すら幸せに感じる。

「ねえ、私、今年はもっと大人な女になるからね!」

私がそっと伝えると翠炎は
目を細めて微笑む。

「真奈は真奈のままでいてください。
私はそのままの貴女が好きなのですから。」

幸せな言葉に顔が綻ぶ。
さっきから笑顔が止まらないよ。



「…ところで結局翠炎の願い事ってなんだったの?」

「…知りたいですか?」

「うん!」

「じゃあ後で教えてあげます。



…ところで真奈は自分で着物…着れ…ませんよね。
ええ…大丈夫です。
少しですが私も心得がありますから心配しないでください。
…大人の女性の件も、大丈夫。
任せてください」

一人で質問と答えを完結し、
にこりと笑う翠炎。
なんだかよくわからないけど、
すごく幸せだって事だけは身体中で感じられるから。



私たちは二人で仲良く
手を繋いでおうちへの道を歩いて行った。









翠炎の笑顔の理由がわかったのは、その2時間後。

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