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□0時ちょうどの出来事
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「だからもっと早く出ようって行ったのに」

「…あんたがレコード大賞見てからって言ったんだろう。」

「…そうでした。」

「…みんな考えることは同じなんだな。」

新年を神社で迎えようと車で出発したんだけど。
さすが有名な神社。
すごい長蛇の列で駐車場にすら入れない状況。

「夜に行くのはやめとけ」って雅刀は言ってたんだけど。


でも夢だったんだもん。
恋人と一緒に神社で迎える、そんな年明けが。


「まだしばらくは駐車場に入れなさそうだな。
先降りるか?
…いや待て。…なんでもない」

「ダメだよ、一緒じゃなきゃ意味ないもん。」


「そもそも…そんな危ないことさせられるか」


「ん?
なんか言った??」

「…いやなんでもない。」

「変なのー。」








「もう完璧に間に合わないね。」

「…ああそうだな。」



時計は23:58を指してる
カーナビの入力を切り替えテレビにすると
そこではたくさんのタレントたちが集まって毎年恒例のカウントダウンをやっていた。





「…今年ももう終わるな。」

「いろいろあったけど、すっごく楽しかった!
雅刀といっぱい一緒にいれたから
すっごく幸せな一年だった!
雅刀は?」


「あ…ああ、まあな。」

「まあなって何、もう!
出しちゃってよ、今年も終わりなんだから!」

「…いやだ。」

そっぽを向いて
かたくなに拒む雅刀。

「もう、かわいくないなあ。」

「あのな…俺は25だ。
…かわいくてたまるか。」

「あはは!確かにそうだね」



「…まあでも、楽しかった。」
そっぽを向いたまま呟く雅刀。素直に言われたら言われたで少し気恥ずかしい。




テレビの画面には2011年まであと30秒という文字。
ただ年が変わるだけなのになぜかこの瞬間が近づくと身構えてしまう。
車はあれから全然動かない。



雅刀といっしょに居られて
すごく幸せな一年だった。


ちらっと見ると雅刀と目があう。
「…なんだ。」
「ふふっなんでもない。」

本当にぶっきらぼうなんだから。




残り10秒のカウントダウンが始まる。
その10秒は今までとなにも変わらない同じ時間のはずなのに
なぜか神聖に感じられて



この時間を雅刀と一緒にいられることがうれしい。
サイドブレーキに置かれた手に、そっと触れる。
幸せだよって、少しでも伝わるように。





テレビの声が3を数えた時。


雅刀の腕が私を引き寄せた。
その目は真剣で、
見つめられた私は、魔法をかけられたように動けなくて…

そしてテレビが1を数え終わった瞬間

「…愛してる」
という小さい呟きと同時に
唇が重ねられた。


…それは少し強引でとても優しいキス。










賑やかに新年を賑やかに喜ぶ人たちと対照的に、
私たちの間には静かで甘い沈黙が流れる。


「…もし普通に神社に間に合ってたら、こんなことはできなかったから…
…まあ、ある意味…怪我の功名だな。」


その沈黙を先に破ったのは雅刀。
そっぽをむいたその顔が赤いのが、
バックミラー越しにわかる。


「…まあだから、特別だ。」
普段は人に見られるかもしれないところで
キスなんて絶対しない人だから
気恥ずかしいのだろう。
ばつが悪そうに頭を掻いている。
そんな雅刀が愛しくて仕方ない。




「…ねぇ雅刀、
もう一回キスして。」

もっと雅刀に触れたいよ。

「…な!
…後ろから見えるぞ!」
私の言葉に目を白黒させる雅刀。
驚きのあまり声が裏返っていて。



「ねぇお願い!
さっきは突然すぎてあんまりわからなかったから、もう一回!」

さっきまでとは逆に、
新しい年はどんどん刻まれていく。


「…わかった。
…じゃあ、目。閉じてろ。」


根負けした雅刀がぶっきらぼうに言う。

「やった」

私は言われたとおりに目を瞑る。
すると間もなくして
雅刀の唇が私の唇に触れた。

言葉とは裏腹な
とっても優しいキス。

私の唇をほぐすように、
何度も何度も軽く口づけていく。
そしてその口づけは触れるたびに徐々に深さを増していって。
綻んだ唇の隙間から、
柔らかくて熱い雅刀の舌が入ってくる。
「…・・んっ・・。」
徐々に苦しくなる呼吸。
呼吸を求めて唇を開く度に、
雅刀の舌が優しく私を追い込む。
絡まる舌がくちゅという音を立てている。


こういうキスも全部、雅刀が教えてくれた事。


雅刀の大きな手が私の上半身を撫でるように動きだして、
私もその手に身を委ねてしまいそうになった時



「……あーもうっ!!
…だめだ、これ以上は。」

その時、何の前触れもなく唇が離れた。

「…雅刀?」

突然の事に驚いて、私は雅刀を見つめる。
もっとしていたかったのに…。

「…バカ。
そんな顔で見るな」

雅刀はぐいっと私の身体を自分の胸に抱き寄せた。



「…これ以上やったら
…我慢できる自信がない。」


その声は少しだけ掠れていて。
聞こえる鼓動はいつもより早かった。




「とりあえずここまで来たんだ。
さっさと初詣すませて帰るぞ。
さっさとな。」

きまり悪そうにこほんと咳払いをして、雅刀はそう言った。

そんな雅刀がかわいくて。
「ねえ、さっさと帰ってどうするの?」
わざと聞いてみると。

「バカ!!
そんなことを聞くやつがあるか!!」

雅刀は顔を真っ赤にして慌てている。
そんな雅刀は年上なのに
なんだか年下みたいで。


「はいはい、ごめんごめん。」「…こら!撫でるな!」

頭を撫でてると
さらに顔を赤くする雅刀。




少しずつ車が動き出して、もうすぐ駐車できそう。

新年を神社では迎えられなかったけれど
普段はぶっきらぼうなの雅刀の
愛をいっぱい感じられて
すごく幸せな年明けだった。







「ねえ雅刀。
あけましておめでとう。
これからもよろしくね。」

「…ああ。よろしくな。」




こんな幸せな日が今年も来年もずっとつづきますように。
心からそう願う、2011年の始まりだった。








それから数時間後。
さっさと帰った私たちが
しっかりと何をしたのか、
…それはご想像にお任せします。

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