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□新しい光の中で
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「あーーなんとか間に合ったな」

「うん、よかったよかった!」

「ほら、メット貸せ。」

「ありがとう。」





私たちは今、海に来ている。
もうすぐ昇る初日の出を見たくて。




「それにしても計画性なさすぎだな、俺たち。」

「ふふ、夜中の4時のテンションで思いついたことだからね。」


「本当、こいつがいて良かったよ。
感謝しろよ、この暁月号に。」

名前にひねりがなさすぎる暁月号というのは
その名の通り暁月の愛車のバイク。
もちろん色は赤。


「いい子だねー、持ち主と違って。」

「ったく一言多んだよ、お前は。」

暁月は笑いながら私の髪をぐしゃぐしゃにする。
こんなくだらないやり取りが
すごく幸せ。


戦国時代で別れた私たちは
奇跡的にまためぐり合うことができた。
暁月が私を追いかけてきてくれたから。

あの時、
暁月とまた会えたあの時
嬉しくて嬉しくて、嬉しすぎて
あの後の事はよくおぼえていない。
ただ幸せな気持ちだけが
あの日からずっと心に残っている。






そんな暁月と過ごす初めてのお正月。








橋の横にバイクを止めて海を眺める。
少しずつ空が白んできて
あと少しで、新しい太陽が世界を照らす。

隣の暁月の髪は
少しずつ昇る光を受けて
きらきらと赤い光を纏っている。

「もうすぐみたいだな。」

「うん。」

「海が近いからか風、強いな。」

「本当だね。」



日の出まで、もう少し
その厳かな雰囲気が私たちに不思議な静寂を与えている。





そんな静寂に浸っていると
突然暁月が口を開いた。






「…あ、あのさ、お前、寒くないか?」

「寒いけどいっぱい着てるから平気だよ。」





そう答えて隣を見ると
そこではなぜか暁月が項垂れていた。

「…はあ…
お前なあ…」

なぜか落胆している暁月。

「…まあいい、ある意味お前らしいから。」



…勝手に落胆して勝手に納得されている。

「変なの〜あ!汽笛だ」

遠くから聞こえる汽笛。
良く見えないけど、遠くに船がいるんだろう。
目を凝らして船を探しているとその時




ふわりと暖かいもの包まれた。


…それは…暁月。
暁月に後ろから抱きしめられていた。






「…お前な…こんな時に『寒いか』って聞かれたら、
『すっごく寒い〜』とか言えよな。

…っとになんつーか、気が利かない奴だな」

上から聞こえる暁月の声は
すごく照れくさそうで。
私の髪に顔をうずめる。

「…そうだよ、口実だよ。
…こうやって…お前とくっつく口実が欲しかったんだよ、俺は…。」

小さく開き直る暁月。
肩にまわされた腕に力が籠る。



少しずつ状況が呑み込めてきた私は、

暁月のその思いが、その言葉が、このぬくもりが
すっごく嬉しくて
幸せな気持ちで体中が満たされてゆく。

私は胸の前で組まれた暁月の手に自分の手を重ねる。
暁月の手は、暁月の心みたいにあったかい。


「ふふふっ」

「…な、なんだよ。」

「なんでもないですよー。」

まだ照れている暁月。

こうしている間にも空は次第にあけてゆく。
海に反射する光。
あたりは神秘的な色に包まれる。



「…ねえ、暁月」

「なんだ?」



「寒いの。」

「へ?」

「もうめっちゃくちゃ寒い、凍っちゃいそう。


…だからもっと、ぎゅうってして?」



「ば、ばかかお前はは!!!!」

声を裏返して焦る暁月。
いつもならばこんなこと言えないけど、
今は不思議と素直になれるのは
きっとこの神秘的な空気と、肌に触れる暖かさのせい。




「ねえ、暁月寒いの。
お願い?」

狼狽する暁月にもう一度言う私。

空が明けきる前に
夜が終わりきる前に

暁月をもっと近くに感じたい






「…ったく…
…わかったよ!」

恥ずかしそうに小さくそう言うと
暁月は腕に力を籠めた。


「これで…どうだ…」
さっきよりぎゅっとくっつく身体。
暁月の早い鼓動が聞こえてくる。
耳元で聞こえる暁月の声は少し掠れていて。

…愛しさがこみ上げてくる。



「まだまだ寒いよ。
寒くて凍えちゃいそう!」


「な…っ!!!!」

「だから暁月、助けて?」



こんなんじゃ足りない。
もっともっとくっつきたい。
壊れるくらいくっつきたい。
離れてた三年を埋められるくらい
もっと強く繋がりたい。








すると暁月は突然腕を解き、
離れた私の身体を引き寄せ



そのままそっとキスをした。



それは少しだけ強引で
いつもみたいに武骨で優しいキス。

「…これで…寒くないか?」

唇を離した暁月の頬は赤く染まっていて
切ないような照れたようなそんな表情をしていた。



「…うん…ありがとう暁月。」





触れあった唇がうれしくて
私は暁月の腰に腕を回す。
暁月の身体はさっきよりあったかい。


「…ああ…いや、こっちこそ…
…なんだ…
…まあ、ありがとな。」

「ふふっ、何それー!」

「っとに、いちいちうるさいな奴だなお前は!」

そういうと暁月は私の体をぎゅっと抱きしめる。
今までで一番、強い力で。










「…なんか…少し恥ずかしいが…
…幸せだな、こういうの。」



「うん、めちゃくちゃ幸せ」


「…だな。」

二人で顔を見合わせて笑う。
たったそれだけのことだけでも
すごく楽しくて嬉しくて、愛しい。

「…今年もよろしくな。」

「うん…
こちらこそよろしくね。
暁月大好き。」

「…バカ…っ
……俺もだよ…」

「ふふっ暁月、顔赤いよ」

「なっ…!
…あ、朝日のせいだ、これは!」




照れを隠すように私の唇を塞ぐ暁月。
その唇はさっきより甘くてさっきより優しい。




あたりはどんどん光に満ちて
新しい一年が始まってゆく。
私たちは愛を伝え合うように
何度も何度も口付けを繰り返す。

こんな日がずっと続きますように
そんな願いをこめて。










私達の2011年最初の思い出は
海と太陽と
数えきれないほどのたくさんのキス。

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