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□跡の後の痕
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通い慣れたマンションの、通い慣れた廊下を走って、あの人の元へ。



がちゃっと扉が開くとそこには
柔らかく微笑む勘助。



「ただいま!」




中に入った瞬間に抱きつく。
まるでそれを予測していたかのように勘助はしっかりと抱き留めてくれる。



「お帰り。
今日は随分と遅かったな。」



「うん、部活が長引いちゃったの。」

今日は金曜日。
学校帰りに勘助の家に行ってそのままお泊まりする日だから、
一刻も早く帰りたかったんだけど
部活の片付けが長引いちゃって
いつもより一時間も遅くなっちゃった。





「すーっごく‥会いたかった…」


勘助の胸に顔を擦り付ける。
世界で一番温かくて、安心できる場所。
ぎゅっと抱き締めてくれる優しい腕に
言い表せないほどの幸せを感じる。


「…身体が冷えきっているな。
先に風呂に入るか?

その間にお前の好きな、ここあでも作っておいてやろう。」


私の冷たい頬に触れ、
勘助は額にひとつキスを落とす。
愛を伝えてくれるような、そんなキス。



「わぁ!
ありがとう、そうする!」



お返しとお礼を込めて勘助の唇にキスをする。
私の顔の位置に合わせて少し顔を下げてくれる
そんな些細な事がすっごくうれしい。
私だけじゃなく勘助も
もっとキスをしたいって思っているのが
わかるから。



ちゅっ…ちゅっと
何度も繰り返し合わせる唇。
玄関でこんなことをしていても仕方ないのに、名残惜しくて
唇が離れたらまたすぐに唇を求めてしまう。
キスがこんなに大好きになっちゃったのは絶対に勘助のせい。


愛をくれる甘くて温かい勘助の唇が大好き。


キスを繰り返しているうちに徐々に身体が熱くなってきちゃった。
身体の外は寒いのに
身体の中はすごく熱い。


勘助の舌が私を誘うように唇の中へと入ってくる。


口内への侵入者は私の舌を容易く絡めとる。

くちゅっと絡み合い、お互いを確かめるように触れ合う舌。



…ん‥っ


その濡れた感触に
甘ったるい声が鼻から漏れてしまう。


勘助の手が私の身体を這いまわる。
それは勘助が欲情してきたことを知らせる印。
キスをしながら器用にコートのボタンをどんどんはずしてゆく勘助。



「んっ…勘助、ダメ‥後で‥」

「何故だ?
風呂になど入らずとも
オレの体ですぐに熱くしてやるぞ」


「ふふっさっきと言ってる事違う」



私だって早く繋がりたいけど
どうせならもっとゆっくり
たっぷり時間をかけて愛し合いたい。


今日は金曜日。
時間はいっぱいあるのだから。



頬に鼻に顔中にキスをくれる勘助。
くすぐったがる私を楽しんで、
更に浴びせられるキスのシャワー。



「ふふっ‥ダーメ」

今日は体育もあったし部活で汗もかいたし、
やっぱりキレイな身体で勘助に愛されたいから。



ちょっと名残惜しいけど身体を離す。


「じゃあお風呂入ってくるからね」

「…手伝うか?」

「何を?」

「お前の身体を洗うのを、だ」

「‥結構です。」

「…そうか、それは残念だ。」


ふん、と愉しそうに笑いながら勘助はリビングへと向かった。














脱衣所でマフラーとコートを取る。
さっきまで寒かった身体は
勘助のお陰で大分温かくなった。


タイツを脱いで籐のランドリーボックスに入れ、
シャツのボタンを上から一つずつ開けてゆく。



二つ目のボタンを開けた時、
がちゃりと脱衣所のドアが開き勘助が入ってきた。



「真奈、着替えを忘れているぞ。
ここへ置いて…」


私が忘れた着替えを持って来てくれた勘助は
何かを見つけたように私を凝視している。




「ありがとう!

…どうかした?
私の顔に何かついてる?」





その目があまりにも真剣だから少したじろいでしまう私。


勘助はその問いには答えず私に近寄ると
顎をつかみ上へ向かせた。





「か、勘助?」

「…何だそれは?」


「えっ?」

「お前の首元にある、その紅い痕だ。」

首?
ちらりと鏡を見ると私の首元に紅い痕がある。
何これ?








だあ゛ああああっ!!!
…思い出したっっっっ!
あの時…‥っ!!







だけど…
こんなこと…さすがに言えない…!!
ヤバイ、なんとかごまかさないと…。






「あっ、…えっと…そうっ!
そう!
蚊!蚊に刺さ…」

「こんな真冬に蚊などおらぬ。」



言い終わる前にぴしゃりと言い切られる。
勘助の纏う雰囲気が
昔のように張り詰めてゆく。


距離を詰められて壁際に追いやられる私。
逃げる事は許さない、そんな雰囲気。


「何故そのような見え透いた嘘をつく。
オレには言えぬことなのか、真奈?」


「…ち、違うの…っ」

「…何が…違うというのだ?」

どんどん低くなってゆく声。
片手を私の顔の横につき、もう片方の手で首筋をなぞりながら、私に問う勘助。
ヒヤリとするその指の感触。
私を見つめる隻眼は
その冷たさ以上に寂しさを湛えていて。
その表情に胸が苦しくなる。





「何故そのように泣きそうな顔をしている?
…オレが怖いか、真奈?」



ささやかな表情の変化を見逃さず勘助は問う。
その声は低くて、そして切ない。









ああもう!
ダメだ…
これ以上隠せない。
隠しても傷つけてしまうだけ。



こんなくだらない事で…!!




「勘助…どうか呆れないで聞いて…。」
張り詰める空気。
決死の覚悟で、私は口を開く。私の首にあるその痕の理由を白情する為に。




















「ひとつ…うえの‥おとこ?」
目をぱちくりさせる勘助。
一気に解ける緊張。


「そう、一つ上の男…!」

…恥ずかしいから復唱しないで。







私の首に残る紅い痕。
それは
体育の時間の友達との悪ふざけ。

ジャージを顎まで被って
ジッパーを上げ下げして遊んでたら
うっかり肉を挟んでしまったという…

なんともくだらない恥ずかしい理由…







高校生にもなって
男性器をネタにして遊んでたとか
さすがに…言いづらくて…








「…お前は…。」

詳しい説明を黙って聞いていた勘助が、目を瞑り呟く。
こぼれる小さなため息は呆れか安堵か…




「…なんか…ごめんなさい、本当…いろいろと。
…もう、しません。」




なんというか…いたたまれない気分。






すると突然、勘助が私の手首を壁に縫い付け、
その恥ずかしい痕に唇を重ねる。

「…っ」

ぢゅっという音とちくっという痛み。
数秒の後、ようやく唇を離す勘助。




「…これはオレに嘘をつこうとした仕置きだ。」



ちらりと横目で鏡を見るとそこには、さっきより数段濃くなった紅い痕。

「…お前はオレのものだ。
オレ以外がお前の身体に痕を付けることは虫だろうと何であろうと許さぬ。」

まっすぐに私を見て紡がれる言葉。

「…はい。」


これを見る度に私は思い出すだろう。
勘助のあの寂しそうな目を。



「…心配させちゃってごめんなさい。」



思わず小さくなってしまう。
そんな私を見て勘助はふっと笑うと、唇に一つキスをする。
そしてその顔はそのまま胸元に降りてきた。






「……か、勘助っ!?」




「一つ上の男…とやらに
オレもなってみたくなってな」


にやりと妖しく微笑むと勘助は
片手でシャツのボタンをはずしてゆく。
あっという間に露になる肌。








「え、…勘助はその必要ないじゃ‥」


そんな私の言葉はキスで塞がれ、勘助に伝わる事はなかった。

ひんやりとした脱衣所で再び冷えてしまった私の身体は
結局お風呂ではなく勘助の身体で温められることになり…






…結局大好きなココアを飲めたのはその2時間後だった。

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