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□眠れない夜に、繋がる思い出と言葉、幸せなおとぎ話の結末
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「青年は、ある領主に仕えていました。
正しく真っ直ぐな領主でした。

ある日、領主の元に天からひとりの少女が降り立ちました。
領主は天が遣わした少女だと信じ
その少女を自分の屋敷に住まわせることにしました。


青年はその少女を守る役目を任されました。
不思議な少女でした。
笑って怒って泣いてまた笑って…
最少は戸惑いながらも
青年はその光り輝く少女に、どんどん心惹かれていきました。
そして彼女もまた、彼に少なからず好意を抱いているようでした。
ですが彼はその想いを口にすることはできませんでした。



それは彼はいずれ領主を…裏切り…
彼女の元を去らなければいけない運命だったからです。



そしてその日は刻一刻と近づいてきているのがわかりました。





戦争が始まり、彼が領主を裏切らなければならない時がきました。
領主を裏切ることは、彼女にはもう会えなくなること。
それは彼にとって身を切られるような思いでした。
でも彼には身を切ってでも…守らなければいけないものがあった。



裏切らなくてはならないことは、ずっと前から決まっていたこと。
彼はいろんなことに、いつもどこか線を引いて生きてきました。
守らなくてはいけないもののために。
諦められないものの為に
彼は自分の人生を、諦めていました。
それでいいと思っていました。彼女に出会うまでは。




彼女は固くなった彼の心を
いとも容易く溶かしてしまいました。
雪を溶かす春の陽射しのように、やさしく、眩しく、暖かに。
彼にとって彼女は…影のない光のようなものでした。



彼女という光から去ることを選んだ彼の世界は
再び闇に閉ざされました。
そして光を知ってからの闇は…
…光を知らなかった頃の闇とは比べものにならないほど
深く、暗く…そして冷たいものでした。


彼は離れれば離れるほど
自分がどれだけ彼女を愛していたかを
身に刻まれるように痛いほど思い知りました。



彼女と一緒にどこかへ逃げて
二人で生きていくことができればどれだけ幸せか…
ただ強く彼女をこの手で抱き締めることができればどれだけ幸せか…
何度そう思ったか、わかりません。
目が覚めても眠っていても
彼女の事を想い続けました。

会いたくて会いたくて…
手の届かない光に、どれだけ彼が…



…真奈…?」








翠の声が止まる。
いつの間にか私の頬には幾筋も涙が流れていた。










「…すみません。
こんな悲しい話、眠る前にするものではなかったですね。
本当にごめんなさい。
もっと楽しい話をしましょう。

…真奈…どうか…泣かないで。」


突然の涙に翠は戸惑い、私の涙を拭う。















違うの、そんなことじゃないの。


そう伝えたいのに、
次から次へと涙があふれて、
私はただ首を振る事しかできない。







「…真奈。」

翠は私を胸に抱き寄せ、
宥めるように頭を撫でる。







違うの

翠の口から語られるその物語が、
あまりにも…









「…真奈、すみません。
ね、どうか泣かないで。」




翠の話した物語があまりにも…
あまりにも…




翠炎…みたいだから…







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