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□眠れない夜は、素直に
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「…仕事の後は…これだな・・・」



囲炉裏の火を見つめ、ひとりゆっくりと盃を傾ける。


住人が寝静まった家の中は、昼間のにぎやかさが嘘のように静まり返っている。


俺は任務のため8日前に家を発ち
そしてついさっき任務を終え帰ってきた。
いつものことだが今回も、結構きつい任務だった。
最後に仮眠をとったのがおとといの明け方だから…ほぼ丸二日眠っていないことになるか。


「眠いわけだな…」


身体はクタクタに疲れてすぐにでも眠りたいのだが、
どうにも頭が冴えてしまって、そのままでは寝つけそうにない。

だから俺はこうして一人、居間で酒を呑んで
眠りが訪れるのを待っている。


疲れた身体に染み渡る酒。
心地よい酔いに身を任せる。



仕事終わりの酒が楽しみ、とは…
…俺も歳とったな…。


とっぷりと夜も更け、今はだいたい…2時くらい…といったところか。





 



俺は柱にもたれ掛かり目を閉じる。
眠りにつくまでの微睡む時間は幸せだ。
こうして目を閉じ意識を手放すまでが、俺がただの俺でいられる、限られた時間だ。








しばらくあいつの…真奈の顔を見ていない。
…別に…寂しいわけじゃない。
また常識外れな事をして皆を困らせてないか心配なだけだ。

まあ…ただ…
…少し顔が見たかった…と思わないわけでもない。





明日は久しぶりの非番だ。
いつもより少しだけゆっくり寝て、その後は絵でも描きにいくか。
もし都合が合うのならば、あいつも連れて。





……。
…今、俺達軒猿は猫の手も借りたいくらい忙しい。
先代も…いなくなってしまったからな。
あいつの警護も俺達軒猿の任務のひとつだ。
非番の俺と一緒に行けば、誰の手も煩わせることなく、あいつの警護ができるだろう。
だからだ。
任務だ、任務。
…他意など…ない。
断じてない。







「…誰に弁解しているんだ、俺は。」




薄く目を開き自嘲気味に呟く。
自分自身に対しても素直になれない、そんな自分を嘲笑いながら
徐々に意識が散らばってくるのを感じていた。



…眠りがもうすぐそこ…まできている…



今日は…このまま…ここで寝るか





近くに丁度あった布団にくるまり横になる。

微睡みから意識の深淵へと落ちそうになるその瞬間…ガタン、と音がした。





















俺は飛び起き、苦無を構える。
眠っていようと物音ひとつで
一瞬で深淵から呼び起こされ、意識は完全に覚醒してしまう。
我ながら悲しい条件反射だ。





物音がしたふすまの方を見るとそこには
とっくに眠っているはずの真奈がいた。




 
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