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□眠れない夜は、素直に
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「わっ……っ」


バランスを崩し俺の胸へと倒れ込む真奈を
俺は腕で抱きしめ胸の中に閉じ込める。
さっきの拍子に倒れた盃から、どんどんと酒がこぼれてゆく。


「…ま、雅刀?」


真奈は突然の事に驚いて状況がのみこめずにいるようで、
胸に感じる真奈の身体は少しこわばっている。

「布団なんかいい…。
どこにも行くな。
…だから…ここに…いてくれ。」


「…ま、雅刀?」

離れたくなくて…離したくなくて、
俺は真奈の小さな身体を更に強く抱き締める。



「…会いたかった。
真奈に会いたくて会いたくてどうにかなりそうだった。

こうして真奈に触れたかった。


だからもう少しだけこのままでいてくれ

真奈を離したく…ない。」























すると突然小さな振動が俺の胸に響く。


「ふふっ…雅刀、やっぱり酔ってる。」


俺の胸の中で真奈はくすくすと笑う。



「…わ、悪い!つ…つい…」

その笑い声にふと我に返り、俺は飛ぶように身体を離す。
酔っているとはいえ、
強引すぎた自分が恥ずかしい。





何も言えずにただ下を向く俺の胸に、真奈が飛び込んできた。

「ううん、うれしい。
…普段は聞けない雅刀の本当の気持ちを聞けたみたいで
…私すごく嬉しい」


「……っ」


「ありがとう雅刀」



お礼、とばかりに俺の頬にちゅっとひとつキスをすると
真奈は俺の身体をぎゅっと抱き締める。



その腕は優しく俺の身体を包んで
あったかく俺の心を包んでくれる。


「私もすっごく会いたかった。
他のみんなといても、雅刀のことばっかり考えて。
瑠璃丸君に笑われちゃってたんだ。
雅刀に会いたいって顔に書いてあるよ、って。

おんなじ…だったんだね。
うれしい。」



俺の胸に顔をうずめて真奈が言う。





俺が真奈を恋しく思っていたように
俺がいない時に
真奈も俺を…思ってくれていた…






それはうれしくて、幸せで…
だけどその嬉しさを表す言葉を
未熟な俺は知らなくて








俺は真奈の唇にそっと口づけた。
心を満たしていくこの幸せな気持ちが、
重ねた唇から…少しでも伝わるように、と。


突然のキスに真奈は驚いて目を大きく見開くが
俺に委ねるようにそっと目を閉じた。
真奈の唇は甘くて、
俺は味わうようにその柔らかい唇を優しく甘噛みした。






名残惜しく思いながら唇を離す。
…俺に火が…付ききってしまう前に。


気恥ずかしい甘い沈黙が
俺達の間を流れる。










「ふふっ…お酒くさい」


その静寂を破るように真奈が口を開く。


「…悪かったな…」


なんだかきまりが悪くてポリポリと髭をかく。


真奈はいたずらっぽい顔をして笑っている。
…俺の好きな、表情のひとつだ。

こちらまで思わず笑顔になってしまう。

こんなにも幸せだと思える時間があるなんて…知らなかった。
「…ありがとう。」


真奈は俺の胸に顔を埋める。


「…私の心、今すっごく満たされてる。」




俺は真奈を抱き締める。



「俺も…幸せだ」



ぎゅうっと力をこめる。
身体中から幸せが伝わるように。



「…雅刀…本当に素直だね。
やっぱり酔ってる。」



俺の言葉を聞いて、真奈が目をぱちくりさせている。



「…悪いか?」


改めて言われると恥ずかしくなって
俺は開き直って聞いた。


「悪くない。
いつもこのくらい素直ならいいのに」

「…バカなこと言うな」





からかうように笑う真奈の唇をもう一度塞ぐ。

何度も何度も角度を変えて
俺たちはたくさんのキスをする。


















「…真奈。」


「なあに?」


抱きあったままで俺は話し出す。


「…明日、非番なんだ。
久しぶりの休みだから気分転換に絵を描きに遠出しようと思っているんだが、

…一緒に来ないか?

…いや…
一緒に…来てくれ。
真奈と一緒に、行きたい」


こんな機会はめったに、ない。
俺はおっもいきって真奈を誘う。

…抱き合っていると照れた顔が見られなくていい。



それを聞くとすぐに真奈は顔を上げた。

「…それってデート?」


「…で…っ!」



顔を見られることはないと油断していた俺は、
真奈のその期待に満ちたまなざしと、デートなんていう忘れかけていた響きに
耳まで真っ赤になって、みっともないほど動揺してしまう。



「ねえ、デートだと…思っていい?」

俺は恥ずかしくて…
いや、それ以上に
目を輝かせ、もう一度問う真奈がどうしようもないほど愛しくて…
俺はまた真奈を抱き締めてしまう。





「…好きにしろ。」





「やった!!デートだ!デートだ!!」



「おい、こら…連呼するな…」


よほど嬉しいのか真奈は何度も何度もデートと繰り返す。

好きにしろと入ったものの、
連呼されると改めて照れくさくなって


子供のようにはしゃぐ真奈の唇をもう一度キスで塞ぐ。

こいつを黙らせるのは、これが一番いい。

…そしてそれは俺にとっても…。



















「よし!じゃあ、そろそろ寝よっか。」


唇を離すとすぐに真奈は言った。


「え、…あ、ああ…。」


俺は少し戸惑ってしまう。
今夜はこのままずっと一緒にいられると
なんとなく思い込んでしまっていたから。




「名残惜しい?」

「……いや…。」

たぶん俺の顔には「名残惜しい」と書いてあるのだろう。
真奈にずばりと言われてしまってバツが悪いといったらない。



そんな俺の頬を両手で包みながら真奈は言う。

「でもダメ。

だって、初めてのデートで彼氏が疲れて眠そうな顔してたらいやだもん。

ね、だからもう今日は寝よう?」





…か、彼氏……

俺が、真奈の…彼氏…



再び緩みそうになる口元。
・・・耐えろ…俺の顔。




「…わかった。」




必死でにやけそうになる顔をこらえ俺は頷く。
…今すぐに寝なくてはいけない。





「よし!いい子だね、雅刀!
じゃあ、おやすみ!」



頷く俺をみて真奈は満足そうに笑うと
俺の頬にちゅ、っと軽くキスをして、自分の部屋へと駆け出して行った。


真奈が去った居間はまた静かになる。

頬にはまだ真奈の唇の感触が残っていて…
そこだけが熱を帯びているようなそんな感じがして
その愛しい温かさを指で確かめるように触れる。





だいたい今は4時前くらい、か。
一人残された俺も、布団にくるまり目をつむる。
もうじき夜は明けて、瑠璃丸も起きてくるだろう。
明日はもうすぐやってくる。


だが、明日が待ち遠しくて仕方ない。


疲れ果て酔った身体に眠りはすぐに訪れる。
俺は意識の最後のひとかけらが
眠りの中に落ちる最後の瞬間まで
明日を思い続ける。




真奈と共に過ごす、幸せな明日を。








 
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