短編集

□尾行
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いつも何処からとなく現れる総司

そんな総司を尾行してみたい

そんな只の好奇心









「総司ってさぁ、いつもひょんな時に現れるよねー…」



中庭でのんびりとお茶をしていた時の、平助のそんな一言

確かにそうだ



いつも気配を消し俺を後ろから…

後…ろから、だだだだだ抱きしめたり、する


恥ずかしいからやめて欲しいのだが…








しかし俺の後ろに立てるのは新選組内で総司のみ


俺はいつも周りの気配を探っているため、人がいたらすぐに分かる


前に新八が斎藤の背後に立てないと悔しがっていたが…

俺としてはあまり立って欲しくはない







「そうだ一君。総司の観察…っていうか、後をつけてみようよ」

『尾行をするということか…?』

「うん、そうそう!面白そうじゃない?」



…ふむ、そう言われれば確かに



こうして総司尾行作戦が始まった










───一日目





「あ!来た来た、一君!総司だよ!そーうーじーっ!!」

『そんなに言わなくても分かる』

「えー、そう?」




ちなみに普通に話しているように見えるが、全て小声だ




総司はこれから居間に向かい朝食を取るようだ

俺たちも取らなくては











朝食が終わり、ごく自然に総司の後に居間を出る

もし見つかった時の対処法もしっかり考えた


それは…













“総司、こんなところに居たのか。探したぞ”



と言うことだ



俺も平助も承諾した








しかし、一瞬余所見をした隙に総司の姿が見当たらなくなってしまった













───二日目



昨日は見当たらなくなってしまってから総司を探したが、見付からなかった


…一体何処にいったのだろうか




「昨日さぁ、総司何処に行っちゃったんだろうねー…」

『…あぁ』

「今日こそ頑張ろうね!」



俺は平助の言葉にこくりと頷く





今日は総司が昼前まで巡察のため、昼飯の後に尾行することにした




ご飯を食べ終え、居間を出る

総司の行くところ行くところを平助と一緒についていく




一時間くらいは順調だった


しかし───





「…お前ら、何やってんだ?」



急に声を掛けられ、驚いて振り向く


するとそこには土方さんがいた




「ひひひ土方、さん…!ど、どうしたの?」



平助、どもりすぎだ



「どうしたのはこっちの言葉だ。さっきからこそこそと…怪しいぞ」






ふとそこで俺は総司がいた方向を見てみる



…?

誰かの服の裾が見えたが…今はもうない

気のせいか…?




「…ったくあまり変な行動すんじゃねぇぞ」

「……はーい」




どうやら二人の会話は終わったようだ



「総司、またいなくなっちゃったね…」

『…そうだな…』










───三日目





今日は朝飯を食べたあと追おうとする


居間をでるが出た先に総司はもういなかった



「…あれ?」



俺の後から出てきた平助がすっとんきょうな声をあげる



「どこいったん…」






…途中から声が聞こえなくなった



不思議に思って声をかける




『平助…?』




振り向くと平助はいなかった



『…平助?平助っ?!』



不安になって辺りを見回す


しかし、俺の回りには誰もいなかった




『…ッ、へい、す…け』



気づけば俺の目からは涙が出ていた




俺を置いていかないでくれ

一人にしないでくれ


俺は怖くなって廊下に座り込んだ





『…ふ、ぅっ…』

「そこでなんで平助の名前を呼ぶのかなぁ…?」



声が聞こえ、ばっと振り返る



「そこは普通、僕の名前を呼ばなきゃ駄目だよ?」

『ッそ、うじ…』




総司は俺の前にしゃがみ、頬に零れた涙を拭いてくれた




「どうしたのさ?」

『平助、が…平助がっ…!!』

「平助なら大丈夫だよ」



そう言って俺の頭を撫でてくれる




『…へ…?』


「うん、左之さんと一緒だから大丈夫だよ」




…そうか…





『…え?』

「うん、左之さんと一緒だから大丈夫だよ」

『いや、そうではなくて』




何故左之が出てくるんだ?




「あぁ、最近さ、一君たち僕のこと尾行してたでしょ?それで左之さんが僕に嫉妬したみたいでね。平助は俺のだっ!って言って連れて行っちゃった」

『…ッ、知ってたのか?』

「もちろん」




俺は力が抜けて総司に寄りかかる



「おっ…と、大丈夫?」

『…あぁ』




もうこんなことをするのはやめようと思った


怖い思いは、なるべくしたくない










尾行
(まったく、可愛いなぁ)(……うるさい黙れ)





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