●企画文

□祝・神尾誕生日/2007
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♪ハッピーバースデー神尾♪

llllllllllllllll


今日は神尾の誕生日。
夏休みとはいえ、部活のため学校に来ていた神尾は、
部員みんなからおめでとうの言葉を貰ってとても嬉しそうだった。

暑さなんかに負けない夏生まれの神尾は、
今日は殊更に機嫌良く、元気にコートを走り回っていて。
楽しみにしていた約束の午後6時に少し遅れてしまった。

「深司!俺、先に行くぜ!!」
「…待たせてやればいいのに…」
「じゃな♪お疲れーっ!」

ユニフォーム姿のまま、
テニスバッグを担いでリズムを上げ校門を抜けると、
黒塗りの大きな外車が路駐しているのに気付いて、速度を落とす。

(…まさか?)

見えないけれど後部座席のスモークガラスを見てしまう。
途端、ピカピカのドアが西日を反射させながら目の前で開き、
そこから道路に踏み出した片方の脚を見てすぐに神尾は気付いた。
「跡部!?」
顔を上げれば車の窓のように黒いサングラスをかけた跡部が
全身に感じるムッとした外気の熱に眉間に皺を刻んでいて、
「迎えに来てくれたのかよぅ♪ちょっと遅れてごめんな〜♪ってうわああっ!?」
跡部の手がポロシャツの胸元を掴み、神尾を乱暴に車内へ引き込む。
ワケも判らず広い後部座席へ転がり込んで
自分のテニスバッグの下敷きになってもがいていたら、
速攻ドアが閉まると同時に「出せ」と運転手に命令する声。

車が動きだし漸く起き上がった神尾が肩からバッグを降ろして跡部の座る座席の横に這い上がった。
「なにすんだよぅ!」
「来るのが遅ぇんだよ」
「だってよぅー」
今までだって部活が少し遅れてしまう事はあったじゃないか、
でも部活や学校は、お互いしようがない…という暗黙の了解があったのに。
唇を尖らせて革張りのシートに腰を下ろすと、
尻に硬いものが当たる。
何か踏んだ、と思って手でずらしたら、双眼鏡だった。
神尾は不思議そうに首を傾げる。
「………跡部、なんでこんなトコに…」
「さァ?その辺に捨てとけ。」

先程まで、楽しそうに部活に励む神尾を
双眼鏡でジッと追っていた跡部は知らないふりをした。



車は滑らかな動きで都内のホテルの地下駐車場へ滑り込む。
今夜の予定は跡部に任せきりにしていたが、
どうやら跡部の家でお祝いしてくれるのではないらしい。

連れて来られたホテルは地下駐車場から直接ホテルの最上階まで繋がるエレベーターが完備されていた。
頭を下げる運転手に神尾は頭を下げて跡部の後をついて歩く。


辿り着いた部屋は最上階、壁一面がガラス張り。
神尾が硬直したまま視線だけ左右に動かすと、
グランドピアノと巨大なテレビと、わさわさ生えている観葉植物、
たくさんのグラスやビンの並ぶバーカウンターが視界に飛び込む。
この空間に、俺ん家が入る、と神尾は思った。

「何ボーッとしてやがんだ、オマエ汗だくじゃねぇか。風呂入ってこい」
「…跡部、ここ、部屋?」
もしかしたら、ここはまだホテルのロビーかもしれない。
しかし跡部は未だサングラスをかけたままで不機嫌な表情を作る。
「ハァ?気に入らないか?」
「そうじゃねぇよ、…風呂ってどっち?」
「そっちじゃねぇの?」
跡部の示す方向へ歩いて行くと、壁の向こうにもうひとつ大きな空間があって、巨大な白いベッドがあったので
広すぎるだけでここは客室に違いない、と少し安心した。
奥のドアを開けると、そこが間違いなくバスルーム…なのだと思う。
神尾は自宅の1坪の風呂を思い、遠い目をした。
ガラス、ツヤツヤの大理石、ピカピカの水栓、ここにもわさわさ生えている観葉植物。
(今日俺、誕生日なのになんでこんな緊張しながら落ち着かない風呂に入ってんだ…)
けれど、湯を浴びればさっぱりして気分も良く、
いつも警戒している入浴中の跡部の乱入も風呂場の違和感の前には些細な事に感じる利点があって。
大理石なのに冷たくない床を床暖房とは知らず不思議に思いながらペタペタと素足で歩き
棚にあるふかふかの真っ白なタオルを取って髪を適当に拭く。
やはりふかふかの真っ白なバスローブを纏いバスルームから出ると、
ドアの真横の壁に跡部が背をあずけて待っていたので驚いた。
「跡部、今日ここに泊まるのか?」
「ああ。」
口数少なく、ミネラルウォーターを差し出され
喉が渇いていた神尾は受け取ってすぐにキャップを開けた。
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