●パラ話

□*シンジと幸運のランプ
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イブシンジと幸運のランプ

  〜 第1話「ランプの精、登場?」 〜
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実家を出て一人暮らしを始めた伊武深司くんは
充実した毎日を送っています。
ごはんに漬物を数種類用意できる収入があれば幸せでしたし、
なにより、1人で居るのが苦痛で無いどころか、大好きなのです。
たまに遊びに来る神尾が煩くしていくのも御愛嬌。
妹たちが連日騒がしかった実家とは、比べるべくもありません。


その日、深司くんは街へ買い物に出かけました。
人ごみは余り好きではありませんが、一人暮らしゆえに、自ら買い出しが必要です。
学生時代などは、部活仲間と街に来て、深司くんひとり、はぐれる事がままありました。
つい、奔放にうろついて、気付くと1人になっているのです。
深司くんは気にしませんでしたが、石田くんや森くんは心配するし、桜井くんはまたかと言って嘆くし、
内村くんは諦めて帰るし、神尾くんは探すうちに迷子になるし、いつも大変な事態になっていました。
なので、買物は1人で行くに限る、と常々思っており、
その面倒を考えると、雑踏を歩くのも余裕に感じます。

そして今日も買物中、ふらりと寄り道です。気まぐれに古道具屋へ立ち寄りました。
目的があるでもなく、興味本位に眺める店内。
がらくたが陳列された棚に、中東風の、古いランプを見つけました。
深司くんは、何故かそのランプがとっても気になりました。

薄汚れていますが、よーく見ると、明るい橙色の金属製のようです。

『 幸運のランプ! ¥777 』

値札がぶら下がっていました。
お店の奥を見ると、暗くてごみごみした狭い場所に
大きな身体の店員が、目立たず静かに座っています。
髪をペッタリと後ろへ撫で付けた渋い髪型の男でした。
桜井くんより断然似合ったオールバックです。

「これ…もう少し安くならない」
他に誰も居ない店内で、深司くんは声をかけます。
石田くん並みに高身長の店員は、眉を寄せ人の良さそうな笑顔で応えました。
「せっかく幸運っぽい値段設定なのに、値切るのか」

「…パチスロなんてやらないし。…500円なら…即買いする」

「いいや、777円」
「うーん…600円」
「せめて700円」
「じゃあ……」


深司くんは地味なわりに頑張る店員と掛け合ってランプを値切り
666円で購入しました。
777円の幸運のランプが、悪魔の数字で取引されてしまいました。



買い溜めた生活用品を肩にうず高く担いで部屋に帰ります。
深司くんは歩きながらテニスボールをフレームトスできる絶妙なバランス感覚の持ち主です。
すれ違う人が大道芸と勘違いするレベルの運びっぷりでした。

部屋に入りドアの鍵をしめると、ひょいひょいと荷物を下ろし、
その中から緩衝材入りの紙袋をテーブルに置き、がさごそとランプを取り出します。

蛍光灯にかざして矯めつ眇めつ観察します。
汚れていたので、とりあえず、シンクでたらいに水を張りじゃぶじゃぶやってみました。
やはり、本来は鮮やかな橙色をしているものでした。
どこからか、
『ちがっ、こ、こすって!優しく…こすって…!』
という幻聴がしましたが、ここは一人暮らし向けのリーズナブルなアパートなので、
声がするのは珍しいことではありません。

気にせず、深司くんはテニスで慣らした強肩でブンブン振って水を切り、
布巾を手にしました。

小さい頃から、母が、妹や深司くんに言っていたことがあります。

 ――お風呂上がりに、肌をバスタオルでゴシゴシしては駄目よ、
 タオルを押し当てて水滴を吸収させるようにするの。

あきらかに美容法です。

けれど、小さい頃に言われた生活習慣は案外身につくものです。
深司くんはランプにギュ、ギュ、と布巾を押し付け乾かします。

きれいになったランプは、部屋の明かりをうけキラリと光ります。
どうしてこれを買ってしまったのでしょうか?
深司くんは、神尾くんと違ってあまり無駄使いをする方ではありません。
衝動買いは珍しい事象です。

「…666円もあれば…京すぐき200gは買えたのに…失敗したかな…」
『いいからこすって!さっさとこすって!』

「今日は近所の声が良く聞こえるな…しかも何か変態トーク…?」
首をかしげつつ、深司くんはランプの質感を確かめるように、ススッと側面を撫でました。

『あっv』
変態トークと同じ声がちょっとイヤラシイ声をあげた時
ランプからもわ〜んと煙が立ちのぼります。
深司くんは天井を見上げました。火災報知器が鳴ったら困るなと思ったからです。
そして目線を元に戻すと、そこには見知らぬ男が立っていました。


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