●パラ話

□*御厄払い厄落とし
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あの時まで、彼は見目が良いだけの、
従順でおとなしい小姓なのだと思っていた。
自分の意志など露ほどもなく、無表情で、
夜伽の間も言われるがままの人形のような。

オレには別に仕事があったから、さほどの興味も無く。
「コワイくらいキレイだけどチョットつまらないお小姓さん」
その程度の認識だったのに。

あの夜。
寝所で初めて彼から声を発したのを見た。

「神尾という小姓を憶えていますか」

その時まだ齢は10を超えるや超えぬや
 白い夜具と漆黒の髪と白い肌。
それらを濡らす、おびただしい、朱。

転がる、藩主の首。

むせるような血のにおいの中
まったく表情を変えず、ポツリとつぶやく少年。

「…神尾の仇…」



〈1〉よたかの孵化---------------------


割り切っていたのに…金のためだと。

なのにあなたは俺の生業を否定し、そして俺は実は…

それに飛びつきたいと思う程、「今」に希望が無かった。

だから、こうなったのは要はタイミングの問題で、
決してほだされたとか丸め込まれたとか、
ましてあの見た目通り軽っぽい内面にひた隠している
重い部分に気付いたからとかではないのだ。と、思う。



その夜も巻いたムシロを手にして、金持ちを物色していた。
俺の縄張りは、花街裏のほんの一角。
花宿に勤める遊女と違い、誰でも安く買える娼妓を目当てに来る客は多い。

この身体は、男の好きにさせさえすれば、
苦労して働くより簡単に金を稼げる。
人がさげすもうと、需要があるのだからとやかく言われたくはない。
この時勢に、充分な働き口など有りはしないのだし
安い賃金をエサに、雇い主に好きにされるよりは割り切って体を売る。
俺の身元を気にする者もいない。

しかし同業者に較べ、俺は反応が薄いらしい。
肌に触れ、触れられ、精を吐くのは、ただ気持ち悪い行為でしかない。

つまり…、客の多くは人形を抱くような気分だと評するのだが、
それの何が良いのか「いつかはこの身体を」と思うらしい、チャレンジャーな常連がついたりもしている。
おかげでそこそこの売れっ妓として名を列ねているらしい。
最も彼らもあまり続かず、俺を罵って去ってゆく。

まぁ貰うモノ貰えたらそれで良いんだけど。
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