●パラ話

□*セレナイト
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20090424UP
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   セレナイト
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千石家の一人息子清純くんには、親が決めた許嫁が居ました。

先日からその相手が千石の館に滞在しています。
いずれ嫁ぐ相手、式はまだまだ先ですが同じ館に暮らして
慣れるも良し、間違いを起こすも良し、
両家は2人の結婚を絶対のものと考えています。
なぜなら結婚は、本人同士の意思に関係なく、
家同士が決めるものだからです。

許嫁の名前は伊武家の深司くん。
彼との対面は、まさにその、先日。
これからしばらく滞在しますというのが、初対面でした。
小さな声で、短く、控えめな挨拶をする深司くん。
清純くんは一目見て
なんてキレイなコだろう、ラッキー!と喜びました。
しかし、すぐに彼への印象は悪くなってしまいました。
まず、笑わないのです。
愛想よく声をかけても、軽い冗談を言っても変わらない無表情。
無表情どころか、不愉快そうにさえ見えます。
婚約者とは思えない、なんという冷たい態度。
親の決めた結婚だから、きっと嫌々従っているのでしょう。
どんなに姿がキレイでも清純くんは
人形の相手をする趣味はありませんでした。

なにしろ清純くんは遊び人。
面白可笑しく可愛い子や綺麗な子と戯れるのが大好きなのです。

ですから、深司くんが滞在し始めても
夜も昼もフラフラ遊びに行く生活は変わらず繰り返されました。
むしろ、帰るのが億劫でその頻度が増した程です。

千石の館は、未来の奥方様をお迎えしている訳で、
使用人たちも気合いが入っているのか
あまり部屋に戻らない清純くんの私室にも、ここ数日は
毎日、花が生けられています。

今も着替えに戻ったら、
部屋のすみのフラワーベースに白い花が美しく生けてありました。
これから街の酒場へ繰り出すので、ナンパするコに
プレゼントしようと考え、その花を一輪抜いて部屋を出ました。
すると部屋の外で、深司くんと鉢合わせてしまいました。

驚いて思わず立ち止まったのですが、
深司くんから何か言う様子は全くありません。
「や、やあ。良い夜だね!」
「……はい…」
「散歩かい?」
「……はあ…」
「それじゃ!」

清純くんは酒場に急ぎながら、溜息をつきます。
いくら美人でも、自分を嫌っている相手と結婚するのは疲れそうです。


「あくつー、いつもの」
「…今日もかよ。」
酒場でカウンターに座り、目の前の亜久津に笑顔で酒を注文しました。
この場所へは最近、連日入り浸っています。
「チッ。飲んだらさっさと帰れ」
「上得意の客に態度悪いぞー」
用心棒と店員を兼ねている亜久津は
悪態をつきながらも酒をつくり始めました。
清純くんは無口な彼に構わず話し続けます。
「今夜はね、この白い花が似合うコを捜しに来たんだ」
人の多い酒場で可愛い子を物色して宿へ、
というコースがここしばらくの日課なのです。
「テメェ、許嫁来てんじゃなかったのかよ」
「そうだよ。亜久津、俺と駆け落ちしよう」
「断る」
白い花を差し出しても即答で断られました。
「幸せにするよ!」
「いっぺん死んでこいや」
全くつまらなそうにタバコの煙を吐き出しながら言い返されました。
「ひどい!俺と亜久津の仲じゃないか」

亜久津は無愛想に、注文の水割りを滑らせ
「ヤった相手全員にそれ言ってんだろ」
「うん」
「100%断られてんだろ」
「なんでだろうね」
「生活能力が無ぇ、性生活がだらしねぇ、千石家を敵に回す、利点が一個も無ぇ」
「恋愛は利点でするものじゃないよ」
「ケッ、言ってろ」

亜久津は冷たい一瞥を残し、黙々と氷を削り始めました。
酒を煽って清純くんはカウンターで頬杖をつきます。
長い付き合いの亜久津は、なかなか鋭い奴です。

確かに、恋愛は利点でするものではありません。
けれど、今までのおつきあいは全て、恋愛でないことも判っています。
夜を一緒に過ごせば楽しく、相手を愛しいと思いますが、
朝にはそんな感情は消えているのですから。


「つまんないなあー」
恋愛もせずに親の言う通り結婚して一生を終えてしまうのでしょうか。
清純くんは手にした白い花の香りを嗅いで、ナンパできそうなコを物色し始めました。
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