●パラ話

□*むかしむかし
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20090811
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むかしむかしあるところのお話
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焼けるような陽射しが照りつけます。
ふもとの村では、続く日照りで作物が実らず
人間たちも苦しんでいるようです。

山に住むキツネの千石さんは、
いつも水遊びしていた小川が干上がっているのを確認し、
がっかりして巣に帰ろうとしました。
「喉がかわいたな」
水が飲みたい。
けれど、こんな時は闇雲にうろつかず、ジッと耐えるのが得策です。
ほんの少しの朝露を舐めてしのぎ、ただ雨を待てば良い。

千石さんは慣れた足どりで、けもの道を辿ります。
いつもなら、山の草木が夏でもしっとりと涼しさを作り出してくれるのに
葉っぱの隙間から降り注ぐ熱で地面もカラカラに乾ききっていました。

「おや?」

千石さんは前方に落ちているものに気付き、首を傾げました。
なにか小さな生き物が倒れています。
人間のような形をしていますが、もっとずっと小さくて、
千石さんの半分の、そのまた半分の大きさしかありません。
気を失っているようです。
近づいてみると、白い四肢と対照的な黒い髪が
ツヤツヤと濡れたようにお日さまの光を弾いていたので、
舐めてみましたが濡れてはいませんでした。
その代わり、清冽な水の香りが鼻をくすぐるのでした。
「人間のにおいと違う気がする…」
鼻を近付けて確かめていると、それは目を覚ましてしまったようです。
生きていたことに、千石さんは少しホッとしました。
なにしろキレイな生き物だったので、動かないのは残念です。

その生き物はゆっくりとしか動きません。
随分弱っているように見えます。
それなのに、聞き間違いでなければ随分と横暴なことをつぶやき始めました。
「…キツネか…くそ…こんな山まで来てがっかりだ…水持って来いって言ったら聞くかな…所詮獣だし無理か…それにしても暑いよ…喉がかわく…水…その前に日陰まで運んでくれないかな…もう動けないよ…ちょと…キツネ、聞いてるのかよ…って言っても無駄だよな…あーあ…」

「涼しいところまで運べばいいんだね?」

答えると、その生き物は少し驚いたようです。
その反応の理由は分かりませんでしたが、
とりあえず移動させるために首根っこをパクリとくわえました。
すると突然、弱々しかった生き物が暴れて千石さんの顎を蹴り上げたのです。

「いたい!!」
「…言葉が通じるから普通のキツネじゃないのかと思ったのにやっぱりただのキツネかよ…背中に乗るから、伏せて。」

理不尽さに戸惑いながらも、拒否できずに千石さんは言われた通りにしました。
また蹴られてはたまらないと恐る恐る背中に背負いましたが
キュッと捕まる手は力なく、やはり弱っているのだと思いました。
千石さんはなるべく揺らさないように、そっと慎重に歩きました。
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