睡眠時間

□横暴君主と人形姫
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この横暴王様と実に早く縁を切りたい。
そう思うも聖杯を望む遠坂の兄の為にはそれは出来ず、自分は苦い思いを飲み込んで無理矢理彼に従う他なかった。
それがどれだけ腹立たしい事で、どれだけ自分の胃に負担がかかる事で、どれだけ心苦しい事なのか恐らくは周囲の人間には理解できない事だろうと思った。

「気に食わん。」

何がだ。
とは、心の声。
実際には「なんでしょうか」と実に丁寧な口振りで彼に尋ねた。
しかし彼は此方の声には一切答えず、ただ不機嫌にじっと此方を眺めるばかり。
そんな風に黙って見つめられた所で彼の真意などわかるはずもなく、寧ろ不快感は降り積もるばかりだ。
いい加減にしてくれとむすっとして彼を見つめ返せば、アーチャーは僅かに表情を緩めた。

「ふむ、今のは中々だ。」

…だから、何がだ。

「貴様のようにただ人形のように黙々と作業するその姿は実に不愉快だと言っている。認めたくはないが貴様は一応我のマスター。
ならばそれ相応に我をもっと楽しませよ。」

無茶苦茶な事を。
大体普通はサーヴァントがマスターに従うものではないだろうか。
何故わざわざ自分がお前を楽しませないとならないんだ。

「……どうやらそこな人形は人の言葉も介せぬようだな、」

すっくと立ち上がったアーチャーが黙々と此方に歩んでくる。
今度は何だと彼を見ようとした瞬間、彼の腕が自分の胸元に伸ばされた。
そのまま襟元をぐいっと引っ張られて、無理矢理ぐいっと服を力任せに破かれる。
まるで雷に裂かれたような音がして、胸元がすーっと寒くなる。
一瞬何をされたのかわからずにただ自分は驚きに満ちて、ぽかんと目を丸くしているばかりだった。
するとふむと顎に手を当てるアーチャー。

「ふん…なるほどな。これでも悲鳴を上げんか、まあ人形なればしかたあるまい。」

次に彼はどんと自分の肩を押して、乱暴に地に伏せられる。
そしてその上に無理矢理馬乗りにされて、頬を撫でられた。

ぞわりと怖気が立って一瞬頭が真っ白になる。

雑種だ下等だと、随分な言い草をしてくれる。
それにいい加減に自分だって此処までされて黙っていられない。

あの大柄な甲冑を着ていなければ、自分とて対処のしようがある。
何しろサーヴァントとはいえこんな優男に純潔を奪われるなど、腹立たしくて仕方ない。
がしっと彼の頭を両手で包み込んで、僅かに頭を仰け反らせてから勢い良く彼の額目掛けて振りかぶった。
瞬間、頭の中が真っ白になって目の前に火花が散る。
けたたましい音が鼓膜に届いた気がしたが、最早音よりも痛みの方が大きく浸透して自分はいつの間にか手を離して床を転げまわった。

未だに目の前をちかちかと星が舞うが、それでもなんとか目の前の彼の無様な姿を確認しようとすれば、案の定呆けた顔をした彼がそこにいた。
額にはただ赤い痕が残るだけで、少しもダメージを受けたとは思えない。

しかし初めて彼に刃向かったのだから、恐らくは逆上されるに違いないだろう。
しかし自分の手元にあるのは絶対君主の令呪。
もしも此方に何かをしてこようものならこれを使って無理にでも彼を止める。兄だって流石に一つの令呪を使うことくらいは許してくれるだろう、聖杯戦争を勝ち抜く前に殺されてしまったら元も子もないのだから。
ぎゅっと赤い痕が印された手を握り締めて、唇を噛み締めた。

キッと彼を睨んでいれば、にやりとアーチャーの口元が緩んだ。

「はははははは!!愉快、実に愉快だ、やれば人間のような真似事も出来るではないか女!」

すると、突然腹の底からの大きな笑い声を張り上げて、心底愉快そうにしだしたアーチャー。
ぽかんとして、それから湧き上がってくる怒りを抑えきれずにかっと叫んだ。

「…私は人間だ!!」

はっきりと意思を持ってそう告げれば、やはり喉でくくっと笑いを浮かべるアーチャーは愉快そうに自分を見た。

「それでよい女。貴様は我のマスターなのだからそのように堂々としていればよいのだ。
主人の品が悪いと、サーヴァントの品質も疑われるからな。
特に我のサーヴァントが貴様のような無機質な華のない女だとはこの我が許さん。
常に貴様は自らを殺す事無く、己のまま振舞うが良い。何よりも我の為にな。」

言って、此方に近づくと此方の髪をぐいっと引っ張って無理矢理顔をそちら側に近づけさせられる。
痛みに顔を歪めれば、低い声が耳元に響いた。

「先程の貴様の非礼は特に許そう。我は寛大だからな。
だが振る舞いの方は今後二度とて許さん。
次俺の前ではまた先のようなくだらん振る舞いをしてみろ、今度はその首、身体と離脱させ地に落としてくれるわ。」

恐ろしい言葉をさらっと吐く王様に、若干肝が冷える。
一瞬鋭く光った彼の眼光に、自分は怯んでこくこくと頷いてしまった。
するとアーチャーはご満悦のように今度こそ笑みを浮かべて、自分の髪から手を外す。

「だがまあ、先程の余興は多少なりとも楽しめた。
人形を相手にするのは聊か詰まらぬ所だったが、貴様のその本性がわかれば今後は楽しめそうだ。」

この野郎。

要するにこの男、あの態度が気に入らなかったというのか?
…やってられん。だったら兄に言われてあんならしくない態度を取り続けていた自分は一体なんだったというのだ。
そう思ってへなへなと身体の力が抜ければ、すかさず「だが敬語は許してやる。今後も使え。」と要らん言葉をくれた。

つまり態度はそのままで、敬語は続けろ。と…?
気苦労はまだ耐えなさそうだと華南はふうと息を吐いた。

◆我侭王様と不躾マスター。

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