睡眠時間

□これぞ僕らの主従関係
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「同時召還、同時契約などと言う稀有な事をやり遂げた雑種ゆえにそこそこ期待をしていたのだが…たかだが病如きに押し負け床に伏せるとは、我のマスターがそんな貧弱だとは情けないわ。」

実体化すんな、霊体化してろ。
後、人間たるもの風邪は引いて当たり前。
重い身体を無理矢理動かして我がサーヴァントに反論しようとすれば、途端に咽こんで上手く言葉が続かなくなる。
心配したランサーが自分の背中を即座に支えてくれて、静かに撫でた。
そして自分の変わりに彼に一言物申す。

「その貧弱なマスターにより、この世に居られる事を許されていると気付かぬのか、
我々が此処に居られるのは誰のおかげか、少し考えたら如何だ英雄王。
幾ら同じ主をもつものとは言えど、それ以上不敬を吐くと許さんぞ。」

真剣なランサーの言葉に自分は少し救われる。
相変わらず忠義に厚い彼をふんっと英雄王が嘲笑った。

「やれやれ、小娘に気に入られる為に必死だな番犬。そこまでして小娘の肩を持ち、自らの忠実心に託けその心を手に入れたいか。」

「なッ……俺は、」

途端に顔色を変えたランサーは、キッと鋭く英雄王を睨む。

つーかお前達両方煩い。頭にガンガンくるので少し落ち着け。
それから頼むからどっちか霊体化しろ。魔力消費が半端ないんだから。
だがこいつ等、一つたりとも人のいう事を聞きやしない。
と言うか耳に入っているのかすらも怪しいくらいだ。

「失礼な事を言うな英雄王、俺はあくまでもこの方に対しては忠義を賭しているのみ…それ以上も以下もない。」
「その割には貴様の行動には少々従者としては目に余るものがあるがな。
いやなに、見ているほうは非常に愉快だぞ。貴様のから廻り具合と頑なに自らの心を認めんその頭の固さがな。」
「……そういう貴様とて、主に対する態度が時折、主に対するものだとは思えんときがあるがな。…恐らくは貴様の言う、貴様の目から見た俺と同じように。」
「…面白いことを言うな、番犬。我がこの小娘に一喜一憂させられていると?随分と戯けた事を言うな。狗。
我はいつでもこんなマスターなど、消し炭にしてくれても構わん。」
「主に手を出す前に、この俺が貴様の首を刈り取ってやるがな。」
「ほお、番犬如きが我に盾をつくというか?」

お前ら本当煩いんですけど。
ものの例えではなく本気で煩いんですけどこのサーヴァント達。
若干の熱でくらくらする頭には半分も二人の早口な会話が入ってこない。
分かるのはランサーのいつに無く険しい表情と、英雄王の酷くむすっと不機嫌になった顔くらいだ。
するとにやりと笑った英雄王は、ふと此方に近づくとどしっと背中に伸し上がってきて、「これでもか」なんて言っている。
その姿にランサーは目を丸くして絶句して、自分の頭上をぽかんと見ていた。

「な、英雄王貴様ッ」

恐らくは自分の頭に顎を当てているのだろう英雄王は、ふっふっふと不適な笑い声を上げてランサーを挑発している。
ランサーは実に苦々しい顔で表情を歪め、据わった瞳で自分、もとい自分の上に居る英雄王を睨み付けた。

「ほれ番犬、手を出してみるが良い。」

なんかこいつら遊んでるんじゃないのとか思って、呆れ半分に息をつき最早この二人を止めるには自分しかいないとやっと気付いた。
まあ、ランサーに至っては自分を労わっているようだからいいとして、問題はまずこっちの横暴王。
自分はふと此方を睨むランサーに声をかけた。

一つ聞きたいのだが、ランサー。
別に令呪を一つくらい使ってしまってもかまわんだろう?

「え?あ、いや…俺は別に貴方の以降に従うまで……って、主?」

そうかそれならよかった。ちょっと待ってろ。今なんとかする。
面食らうランサーをさておき、早口でそう言ってから左手の英雄王を従えるための令呪に視線を送る。
すう、と息を吸って呟くように早口で唱えた。

英雄王に命ずる。
主君の私の命令に今後絶対何が何でも必ず従う事。

「あ、雑種!貴様!!」

気付いて騒いだ所でもう遅い。
カッと赤く光り輝いた掌を見て、自分は確かめがてらに英雄王に命令を下した。

英雄王、上から退け。

「ぐ、………ッチ!!」

舌打ちを一つ残すと、英雄王は自分の上から退いたようで重みが消えた。
いつもならこんな命令をした所で必ず「ふざけろ」だの、「王たる我に刃向かうか」だの言って話を聞かないはずの彼。
しかしその彼がこうしてすんなり自分の命令を聞いた事になんだか思わず感動した。

…いい。これはいい。

「雑種、貴様……」
「自業自得だ、英雄王。」

ふうと一つ息を吐いたランサーが、いつの間にか英雄王と自分の間に入っていて、大丈夫ですかと額に手を当ててきた。
自分はにっこりと笑って頷く。

後手始めに、英雄王人の事雑種呼び禁止。
更についでにそう付け加えてみれば、アーチャーはまるで金魚のように口をパクパクさせた後自らの喉を抑えて苦渋の顔をした。
ちらと此方を恨みがましく見つめ、やがてゆっくりと息を吐き出した。

「………華南、貴様この我をコケにしたこと、よく覚えておけ……。」

ああ、すっきりした。
ぽつりと自分の名前を呟いた英雄王に実に気分がせいせいとして、満面の笑みを浮かべて横になった。
まだぎゃーすかと英雄王が騒いでいたような気がしたが、全部無視だ。
苦笑するランサーの横顔が目に入って、したり顔を向ければ頭を撫でられた。

「この小娘めが…!令呪を使い切った時、目に物を見せてくれるわッ。」
「諦めろ英雄王、貴様も俺もこの方には敵いはせんよ。」

例え、主が令呪を使っていなくともな。というランサーの声がアーチャーに届いたのかは定かではない。

◆そして皆聖杯戦争すっかり忘れてる

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