夢幻 時間

□続・わたしのおねえちゃん
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私のお姉ちゃんは高倉白野ちゃんと言います。
私の大事で大好きで大好きで大好きなおねえちゃんです。

普段はあんまり家に居ないけれど、その代わり帰って来た時の喜びは人一倍です。
お兄ちゃん達も白野ちゃんにはたじたじです。

そして最近では、私の担当になってくれた先生の眞悧先生が凄く白野ちゃんと仲良くなっちゃったみたいです。

今日も私と白野ちゃんが話している最中に顔を出しに来ました。

折角私が白野ちゃんと話していたのに、先生が来た途端に白野ちゃんを取って行っちゃうから、なんだかとっても寂しいのとなんだかとってもつまらないのでいっぱいです。
先生もまるで狙ったかのように白野ちゃんが居る時は素早く病室に来るから、タイミングが良過ぎてなんだか悔しいです。

かんちゃんの話によれば、今日は白野ちゃんは仕事先の店長さんと一緒に帰ってきたそうです。
どうしてそんな事になったかと言うと、今日は突然の雨に見舞われて折り畳み傘も、ましてや傘すらも持っていかなかった白野ちゃんは途方に暮れて、その人に家まで送ってきてもらったそうなのです。
店長さんはとてもいい人で白野ちゃんに優しくしてくれるそうなのですが、かんちゃん曰く、その笑顔には絶対裏があるとの事だそうです。
私が居ない間にもそんな事が起こっているなんて…なんだか心配で心配で夜も眠れなくて、夢の中に白野ちゃんが出てきちゃいます。
あれ、これ私寝てる…?

「……」
「……」

「かんちゃん、私早く退院したい。」
「(寧ろ俺が入院したくなってきた。言ったら怒られるだろうけど)」

切実にそう述べる陽毬に冠葉は心の中で逆の事を思うも、苦笑しながら「まあ待て。」と彼女の肩をぽんと叩く。けれども陽毬は不服そうに顔を上げて、ばっと彼へと振り返った。

「でもっ、」
「陽毬。お前の苦悩はよくわかるさ、兄妹だからな。けど駄目だ。お前が無理して出て行ったところで、あの女はどういう反応を取ると思う?」
「……きっと、心配して病院に連れ戻す。おんぶしてくれて。」
「正解。」

やきもきする陽毬を宥めるように冠葉は優しく問い掛けると、陽毬は分かっていたその答えに意気消沈してがくりと肩を落とした。
自分がどれだけ焦れた所で、結局は心配した姉に逆戻りさせられるのは見える落ち。そればかりか、逆に彼女に負担をかけさせてしまう。
そんなしゅんとした陽毬を見て、冠葉は優しげに笑いかける。

「陽毬、そんなにお前が頑張ろうとしなくていいんだよ。
お前は兎に角、この日記に姉貴と誰かの事を事細かに書いていてくれるだけでいいんだ。
そして時々、わざと姉貴に甘えて見ろ。話してるときも構わずに。」
「わざと?」

陽毬はその冠葉の言葉に目を丸くして、きょとんと首を傾げた。
けれども心配げに視線を落とし、でもと小さく呟く。

「それじゃあ、白野ちゃんの邪魔になったりしないかな…私。」
「安心しろ。あいつは陽毬には最高に甘いから、その程度で邪魔だと思うわけが無いさ。」

何しろ陽毬とは女同士と言う接点もあり、彼女にとっては一番気心を許せる相手及び、一番可愛い盛りの相手であるのだ。
小さな頃から懐いていた存在を無碍にするなど、あの白野なら有り得ない。
冠葉は確信を持って陽毬に言うと、陽毬は若干瞳を輝かせて「そうかな?」と冠葉に問い掛けをする。

「陽毬がそうしてくれることによって、病院に居る間の白野が少しでも変な男から護られることになるんだぞ。
陽毬の手であいつを護ってやるんだ。」
「…私の、手で?」

冠葉が力強く言った言葉を聞いて、陽毬は目から鱗が落ちた。
瞬時に瞳に輝きを取り戻した陽毬は日記帳を抱え、キッと凛々しい顔つきになって冠葉を見上げる。

「…かんちゃん…私、やるわ。
私の手で白野ちゃんを先生の魔の手から護ってあげるの!」
「ああ、その意気だ陽毬っ。…流石俺の妹だ。」
「かんちゃん…!」

ぱちんと音を立てながら二人は互いの手を合わせて、真摯に相手を見つめた。
実に感動的に見える兄と妹の場面。

しかし要するにこれは姉が下手な男に手を出されないように邪魔をするという、ただのシスコンブラコン劇であるわけで。
扉の外で二人の話を聞いていた晶馬は、下心では二人の間に入って加担したかったものの、それでいいのかという常識心もあり、酷く複雑な心情を揺れ動かしていた。
その隣で扉にきちんと耳をつけていた苹果は、にやにやと嬉しそうにしている。

「私も入りたい…ああ、あの二人の間に私も混ざりたい…ッ!!」
「荻野目さん、それはちょっと待った方が…」
「なによっ。晶馬君が一番あの中に入ってお姉さん護りたいと思ってるくせに…」
「……それは言わない約束だよ…。」

そんな四人が揃う陽毬の個室の裏側で、同じ病院内では今日も眞悧が彼らの姉を勝手に診察室に入れていたりした。

「痺れるねぇ。」
「はい、なにがですか?」

仕事先からそのままの格好でやってきたばかりの白野は、陽毬の容態を彼から聞きながら、ぽつりと唐突に零した彼の言葉にきょとんとした。

「君の妹さん達の兄妹愛さ。」
「ああ、あいつ等はとても仲がいいですから。」

自慢げに、誇らしげに口にする白野に、眞悧はくすりと笑う。

「台風の目は何も知らない、か。」
「え?」
「いいや、こっちの話。それよりも、もう少し僕と話していかない?
君と話していると仕事や何もかもを忘れるくらい楽しくてね。」

◆貴女日記りたーん

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