夢幻 時間

□それは物より確かな、
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「陽毬、なんか今日可愛い髪留めつけてるね、そんなのあったっけ?」

夕飯を食べている最中、珍しい赤と青の意思が嵌った黄色に輝く髪留めを嵌めている陽毬にふと晶馬がそう尋ねた。
すると陽毬は良くぞ聞いてくれましたと言いたげに表情をにんまりと緩めて、一旦箸を置く。

「えへへ、実はこれ。白野ちゃんに買ってもらったんだー。
この間、お給料だから何でも良いよって言ってもらって……」
「あいつもたまにはセンス良いな。」

そういえばと確か以前に彼女が陽毬と一緒に遊びに行った事があったなと口にして、後になんだかまるで王子様とデートしているみたいだったと、うっとりして陽毬が語ったのを思い出した。
自分がいつものように悪態交じりに彼女を語れば、むうっと陽毬が頬を膨らませる。

「たまにじゃないよ、白野ちゃんは私の事なら確実にセンス良いんだもん。」
「でも人にあったセンスを選ぶのは上手いよね姉ちゃん。僕のもホラ、藍色と青色の混色のお茶碗と、お箸。」

すると逸れの裏づけのように、晶馬が思い出したように自分の茶碗と箸を見せびらかすように掲げる。
それは確か彼が以前うっかりして自分の茶碗を割ってしまい、姉と一緒に買いに行った時のものだ。箸の方は買う気はなかったらしいのだけれど、そろそろ古びてきている晶馬の箸を察して、姉が折角だからと一緒に買ってくれたらしい。
それ以降この品は彼のお気に入りになってしまい、毎日自分で大事に洗っては使っている。

「そうそう!しかも白野ちゃんが選んでくれると不思議と何でも直ぐに気に入っちゃうの!」
「ふーん…俺はそうでもないけどなー。」

こくこくと頷いて同意する陽毬と、頬を染める晶馬を見て、相変わらずに空気を読まずに可愛げのない事を言う自分。
勿論二人からのブーイングは必須で、冷ややかな視線を向けられた。
けれども冠葉は気にする事はなくにやっと不適に笑ってかわす。

「だってあいつの選ぶものなんて大体ワンパターンだからな。特に実用的なものばっかり選ぶし、」
「そこがいいんだよっ。いつも使えるものを選んでくれるから嬉しいの!」
「そうそう!」

いつも使えるものって言っても、そこまで愛用するものじゃ、と言い掛けてはたとそこで冠葉は気付いた。

……そういえば俺って、

姉貴に何か貰ったことあったっけ?

いや、あるにはあるのだが逸れは総て食べ物の方に回されて腹に収まってしまうので、主に二人のように形として残るものはない。
二人が和気藹々と語る横で、今更その疎外感に気付いた冠葉は自然と表情が引きつってしまう。
だがそんな彼に気づくことはなく、二人はあれだこれだと姉から貰ったものについて次々と話を進めている。
そんな二人の様子に内心では焦燥感がありつつ、全く気にしていない素振りをして見つめながら、冠葉は静かに背を向けた。

「で、お前はなにやってんだい?」

と、姉が疑問を持って冠葉に問い掛けたのはその日の晩。
今日も夜遅くに返ってきた彼女がうがい手洗いをして、今まさに眠りに付こうとしていた時だった。
なんでもないと冠葉は白野の背中に引っ付いたまま、彼女の腹に両腕を回す。

「自分だけが優勢だと思っていたのに、全く違う場所を走っていて優勢どころかとっくに追い抜かれていたと言う事に気付いて、途轍もなく打ちひしがれていただけだ。」
「なんだい、マラソンかなんかの話?」

深く溜息をつく冠葉。
その前で彼の言っている意味がいまいち理解できずに疑問符を浮かべる白野。
この鈍感さが彼女らしいと言えば彼女らしく、また今は救われもするが、逆に全く救われなくて冠葉は苦笑いを浮かべた。
すると、なんだかよくわからないが。と言ってぽんぽんと自分を撫でる姉。

「お姉ちゃんの愛の力をあげるから、とっとと元気になりな。
お前も明日早いんだからそろそろ寝ないといけないだろ。」

そう言うと彼女は腹に回されている冠葉の手を外して、その手の甲に一つ口付けを落とした。
冠葉は屈んだ彼女の姿を見て目をぱちくりさせたが、その後に手の甲に触れた柔らかな温もりにぽかんと口を間抜けに開いてしまう。

あまりにも驚いたというか気が抜けてしまったせいで、その際に彼女を拘束していた腕も自然と緩んで解放してしまう。
やっと身体が動けるようになった姉は此方へとくるりと振り返り、にこやかに笑う。
そして両手を広げて、おいで。と一言微笑んだ。

「………やっぱり優勢だったようだな、俺。」
「ん?なにが。」
「なんでもねーよ、こっちの話。」

これ以上に喜ばしいプレゼントなんて自分にはないから。
とは口に出さず、冠葉はいつもとは違い、遠慮なく彼女の腕に飛び込んだ。

◆一番のプレゼントは愛

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