夢幻世界

□探偵と助手の事情
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自分の惚れている男が、友人らしき男にちょっかいをかけている姿を見たら、あなたは如何思いますか?
なんて問いかけ、正直された方は訳が分からずに何を言っているんだコイツはと疑問を抱くだろう。

しかし実際その様な状況に陥られてしまった自分は、その問い掛けに切実に嫉妬します。と、答えたいほどだった。

気付けば彼の隣に居た少年に、誰よあの男。なによあいつ。等とふつふつと怒りが湧いてくる。
幾らその鬱憤晴らしに、ぎろりと秋瀬を睨んでも、彼は少しも怯む事無く寧ろ此方に笑みを返してくるという不思議な余裕っぷり。

大好きなはずの珈琲牛乳すら喉を通らない。
幾ら雑誌を何度読み返しても心震わされるものは無い。
逆にモヤモヤとした気分だけが悪化して、最終的にはベンチに体を投げ出した。
このまま少し眠りに入ってしまおうかと瞼を閉じても、眼に映るのは瞼の裏なんかではなく、今一番見たくない秋瀬の笑顔。
勿論、それで眠れる訳がなく直ぐに眼を開けて舌打ちをした。

悔しい。どうしようもなく悔しい。
可笑しな敗北感に見舞われて、無性に彼が憎らしくなった。
まさか自分がこうまでもたかだか一人の男如きで、しかも同性愛に近い物を持つ男に調子を狂わされてしまうものなのかと。
あんなへらへらした男にいつの間に捕らわれていたのかと。
そもそも己にこんな独占欲があったのかと。
込み上げてくる激情の念は誤魔化しようがなく、渦巻いている嫉妬心に苦しくて心が折れてしまいそうになる。

本当になんてくだらないしょうもない。
だがそう嘯いてみても依然とて、情念は収まる術を知らずに自分の心の中で猛威を奮って内側から胸を激しく突いた。
こんな痛みを引き起こすのも紛れも無いあの男のせい。

「ご気分はどうだい、お姫様。」

調度良いタイミングで顔を上げれば、そこには先程まで自分の心を煮やしていた人物の姿。
一瞬自分の妄想が外に出てしまったのかと錯覚するが、彼が自分の頬に触れた途端、それは現実なのだと理解する。

「なにしにきたの。」
「なにしにって、ワトソン君の機嫌を伺いに。」
「…誰がワトソン。」

探偵には助手はつき物だろう、とさも当たり前のようにさらっと吐き捨てる秋瀬に、湧き上がる苛立ちが止まらない。
むっとした怪訝な顔で彼を睨めば、秋瀬はおやおやと肩を竦めた。

「想像以上のご機嫌斜めだ。」
「………煩いな、別にいいじゃない。私が機嫌悪かろうと。」
「それは困るよ。僕は君の笑顔が好きだからね。
機嫌が悪くなられたらそれこそ悲しい。」

悲しい、と口で言うくせにその表情はやはり笑顔。
彼は遠慮も、声もかけずに華南の隣に座り込むと、脈絡無く、此方の顔を覗き込んできた。
華南はぎくりとしてその秋瀬の行動に一瞬戸惑いを隠せずに居るも、視線のみを明後日の方向へと向けて唇をへの字に固めた。

「…馬鹿秋瀬。」
「それは非常に心外だなぁ。」

嘘をつけ。
その顔は心外なんて微塵も思わずに、にやけているくせに。
とは、口に出す事は出来ず、そもそも口に出していた所で無理矢理言葉を紡ぐ唇を塞いできた彼に伝わる事は無かった。

◆このガチのホモめ。

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