□仲直りのきっかけ
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ふと空を見上げて、なんとなく雲が覆い暗くなってきたな。と思った直後、天候はあっさりと姿を変えてバケツをひっくり返したような雨が辺りを襲っていた。
車内の中で雨音を聴きながら、車を走らせていたセイバーは、酷い天気だと隣に座るアイリスフィールに語る。
アイリスフィールは水浸しの道路を目にしながら、ほけっとして曖昧にそうね。と同意した。

赤から青に変わった信号を通り抜けて、道を曲がろうとハンドルを切ったセイバーは、その際道端に見慣れた影があった事に気が付いて一度動きを止めかけた。

「今のって…白野、よね。セイバー。」

運転している自分の隣で、どうやら同じものを発見したらしいアイリスフィールが脳内で描いていた人物の名前をすんなりと口にしてくれて、やっぱり。と確信を持った。

「アイリスフィールにも見えましたか…」
「ええ、見た所あの子…一人で雨宿りをしていたように見えたわ。
手にも鞄しか持ってなかったと思うし…もしかして、白野ってば、傘を忘れちゃったのかしら?」

どうやら信号を見ていた自分よりもきちんと彼女を目に映していたらしく、アイリスフィールは彼女の状態を事細かにセイバーに伝え始めた。
セイバーはそれを聴くと、なんとなく彼女の事が気になってきて、若干減速する。

「…あ、あのアイリスフィール…」

セイバーの言わんとしていることを直ぐに察したのか、アイリスフィールはすんなりと理解してくれて、どうぞとお許しをくれた。

「白野の事、気になるんでしょう?
本音を言うと、私の方から切り出そうと思っていたのよ。
いつもランサーと居るあの子が一人で居るなんて尚更気になるし……申し訳ないんだけど、セイバーちょっと見てきてくれるかしら。
それで、もし何かあったら彼女を連れてきてくれると嬉しいわ。」

そんな彼女の寛大さに感謝しながら、セイバーは片道に車を止める。
そしてアイリスフィールから貰った傘を片手に、彼女が雨宿りをしている場所へと向かった。

だが、彼女の元に辿り着く前に英霊の一人が姿を現し、白野の後頭部をこつんと傘で小突いていた。
それを目にすると、セイバーはぴたりと足を止めて一旦その場に立ち尽くす。

白野は後頭部の衝撃に目を丸くしていたが、やがて背後を振り返ってその存在に気付くと表情を和らげた。

姿を現したのは普段彼女に従順な方のサーヴァントではなく、どちらかと言うと生意気な方の英雄王。

なんと珍しいことかと思いながらも、彼を目視した途端に、自然と拒否感が襲ってその場から遠退いてしまいたくなる意識に駆られる。

その間にもセイバーに気付かぬ英雄王は、彼女に傘を差し出して、さっさと開けと口煩く促しているようだった。
白野は英雄王の出迎えに驚きながらも、子供のようににこやかに笑ってそれを差そうとする。
そんな彼女の表情を見て、ぐっと苦虫を噛み潰したような顔でセイバーが奥歯を噛み締めていれば、ふとその背後からまた一人現れた。

今度こそ、彼女に従順な方のサーヴァントで、なにやら彼は主である彼女と少し顔を合わせづらい様子を覗かせていた。
白野のほうはいつにない無表情で彼を眺めていたが、その内ふっと笑って、ランサーの手を取りくいっと引っ張った。
ランサーはそれにはっとしたように面を上げると、何処か泣き出しそうな表情で彼女を見てから、儚げに微笑む。

それを遠目から見ていたセイバーはその意味が理解できなかったが、彼らに何かがあったのだろうという事だけは漠然と理解できて、余計に踏み出そうとする足が止まった。

やがて当初はランサーが霊体化して帰ると言っているようだったが、英雄王がなにやら彼と言い争いをしていたようで、結果彼女を真ん中にして、その隣にサーヴァント二人が身を寄せ合うようにして歩く事に決めたらしい。

英雄王はなにやら不満を述べているようだったが、それに対してランサーが訝しげな顔で咎めて、白野は自分のペースを崩さずになにやら鼻歌を歌っているようであった。

上機嫌な彼女を英雄王がにやつきながら小突いて、それをランサーが激怒して彼女の頭を撫で、彼女はむすっとしてから、やはり歌を再開した。

遠目でそれを眺めていたセイバーは、なんとなくもやもやとしたような気持ちが溢れて、暫くその場で立ち尽くす。
やがて、彼らがただの点になるまでずっとそれを見守っていた。

「……全く、私はどうしていつもいつもこんな役割なんでしょうか。」

曇り空以上に晴れやかではない顔つきをしながら、不満を洩らしたセイバーは車へと戻る。
中ではアイリスフィールが今か今かと彼女の到着を待っていた。
事情を話せば少し彼女はがくりとしたものの、けれどもそれ以上にセイバーの事を気にしているようであった。

「あら、じゃあセイバーは振られちゃったのね。」
「違います。声をかけようとしたんですが、横から彼女を持っていかれたんです。」
「まあ。可愛い言い訳。」
「本当です。」

彼ら二人が付いていなかったら、自分はすんなりと彼女を連れて行けたのだから。
セイバーは胸の中の晴れない霧を愚痴としてアイリスフィールに吐き出しながら、次こそはと心に誓った。

「…所でアイリスフィール。」
「なに、セイバー。」
「私も雨の日に切嗣と口論をして出て行けば、彼は傘を持って出迎えに来てくれるでしょうか。」

◆ちょっと夢見たい

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