□衝動的な独占欲
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「貴様らしくはない代物をつけているな、白野。」

胸元に輝く銀色の指輪を発見した英雄王は、やや不機嫌そうな口調だった。
ランサーが買出しに出ている間、掃除を終えた白野は三角巾を外しながら、嬉々とした表情で自身の胸元に手を伸ばす。

 ああ、これ。

口元を緩めて銀のネックレスに通した指輪を首に嵌め、ネックレス同様に銀色に輝く指輪を慈しむように眺めた。

白野は、ランサーから貰ったんだ。と、率直に遠慮なく告げる。

以前彼女は誰かに指輪を貰ったことがある。
けれどその際には何故かランサーに無理矢理奪われては宝箱の中に押し込まれていた。

他人のものなら拒否するくせに、自分のものであれば彼女に受け取らせる。
英雄王は、ランサーのとことんまでの独占欲の強さの見え隠れにうんざりした。

「何故その様な滑稽な事をしている?
アレにそうしろと指定されたのか?」

回りくどい事をせずとも、指輪は所詮指輪。
指に嵌めるのが通例であろうに。
英雄王はその不恰好さを追及しながらも、意識はその指輪の贈り主に知らず知らずと向けられていた。

 違う。自分の判断。

白野はぶんぶんとかぶりを振ると、大事なものだからこそ、なくしたら困るからこうしてる。と言ってぎゅっと両手で指輪を包んだ。
そう語る彼女の瞳は至極真剣で、それが余計に英雄王の癇に障った。

白野は時におっちょこちょいだ。
ついつい指輪を外した際に何処かに置き忘れたり、あるいは外れたのに気付かないとも考えられない。
そう自ら判断した彼女がとった苦肉の策が鎖に指輪を通してネックレスにするという考えだったのだ。

「ほう。大事。大事とな、貴様にとってはこの程度の玩具を貴重品と申すか。
…馬鹿らしい。」

英雄王は心底おかしそうに嘲笑った。
当然、白野はその口振りにむっとする。

 この程度って、

彼女が反論する前に、何気なくそのネックレスの鎖に指を通して、ぐい、と強めに引っ張る。
すると、白野が苦しそうな顔で眉間に皺を寄せた。
ちょっと。と彼女の反論が聞こえるも、英雄王の耳には入らない。
視界には銀色の指輪がくっきりと映されていた。

暫くそれを忌々しそうに眺めると、英雄王はなんの躊躇いもなく力任せにその鎖を引き千切った。
飛び散ったネックレスの欠片はキラキラと舞って彼女の膝やら床に煌びやかに飛び散る。
繋がれていた指輪も、同時にころんと床に落ちた。
それを見下して英雄王は足で踏みにじる。

彼女が何かを口にするその前に、白野の後頭部に手を当てて、先に英雄王がその唇を自らの口で封じた。

◆憤怒

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