□幼少ポイズン
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その日白野は途轍もない憂鬱に駆られていた。
つまんない。
たった一言、心の中でそう呟いて、ぷくーっと頬を膨らませた。
耳を劈く阿鼻叫喚。辺りに撒き散らされる人体の赤。
その真ん中で人を実験動物のように扱う一人の男。
携わる笑みはとても美しく、傍観しているのが勿体無いほど。
白野はその彼の子供のようなあどけない面持ちも、血に濡れた姿も、総てが総て憧憬だった。

もしもあの人に間近で笑みを浮かべてもらったら。
もしもあの人にあの瞳を見つめてもらったら。
うずうずと逸る心に反して一向に自分の番は訪れない。
待てど暮らせど、彼が選ぶのは自分ではなく他の子供。
私の方が先に来たのに。私の方が先に選ばれたのに。

泣き叫ぶ子供を見ては、何で泣くんだろうかと心底不思議に思った。
別にいいじゃないか。死ぬわけじゃないし。
別にいいじゃないか。意識はあるんだし。
それがどれほど残酷な事かなんて幼心にわかる訳もなく、白野は逆恨みに近い感情で、龍之介の創作に使われる子供たちを憎悪した。

やがて、子供達と共に隔離されていた白野は、気付けば龍之介達と同じ場所に開け放たれていた。
より鮮明になって聞こえる悲鳴と、飛び散り目に入る赤い液体。
ぞくぞくとした。
それは恐怖なんてものとは程遠く、言うなれば快楽に近しい。

どうか、どうかあの視線が此方に向けばいいのに。
神様が居るのなら、早く彼が此方に向くように仕向けてくれればいいのに。
だが、白野にその視線が向いても、決して龍之介は手を出す事はなかった。

「ねえ、なんで君だけ手をつけないままなのか、教えてあげようか。」

耳元で囁かれる彼の声にぞくぞくとして、自然と口元が緩む。
内容なんて如何でもいいけれど、応えないと嫌われてしまいそうだから懸命に頷く。
すると、彼が此方の髪を優しく優しく撫でてくれた。

「それはね、君が俺に対して希望を持っているからだよ。」

そんな幸せな顔してちゃ、殺すに殺せないでしょ。つまらなくて。
彼の話を聞いてやっと、ああそうか。そうだったのか。と納得する。
つまりは彼は自分を嫌っている訳じゃなくて、つまらないから手をつけなかったんだ、とそれを拙い頭でやっと理解すれば忽ち喜びが沸いてきた。
殺してくれないのは惜しいけど、嫌ってないならとても最高。

「じゃあ、頑張って」

私、頑張って、

「殺されるように、貴方の事憎むね。」

どうすればいいのか分からないけど。
愛しい気持ちを抱きながら、頬を紅潮させて白野はにこやかに微笑んだ。

◆歪んだ熱意

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