□泡沫世界の片鱗にて
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「えっ、喫茶店?」

とある一件の茶屋。
その日そこにいつものように団子を食べに行っていた銀時は、ふと看板娘の一人である彼女に声をかけた。

「何言ってるの、前から此処は茶屋でしょ?」
「そーだよなぁ…古びれたジジイとババアと、未来のババアが居る何の変哲もねえ茶屋だよなぁ…」
「一言が多いッ。」

ごんっとその頭をお盆で叩き、まったくもうとウェイトレスは肩を竦める。
銀時は殴られた患部を手で摩りながら、顔を歪めて彼女を睨んだ。

「ってーな!テメェっ、お客様は大事にしやがれ!人の頭ぼんぼんぼんぼん、何だと思ってんだ!タンバリンじゃねえんだぞッ」
「お客様というのは二十回以上ここを訪れて茶菓子食べて、それでも金を払わない人の事を言うのでしょうか?」

それは明らかに間違いなくただの盗人だ。
彼女は確実にそう言いたい険しい顔つきで、口を尖らせた。
そういわれてしまうと銀時も返す言葉もなくなってしまい、ついついぐっと言葉を詰まらせる。
やがて根負けしたのか小さく舌打ちを落とすと、彼女から顔を背けて人並みの方へと視線を向けた。

「…でもマジでここだった様な気がするんだがなー。」
「うーん…夢と混合してるとか?ほら、夢の中で見た景色と現実で見た景色ってたまに似たような気がしたりするじゃない?
既視感…っていうのかな。」

ぼそりと銀時が呟いた言葉に、何気に彼女まで一緒になって考えてくれる。
うーんと顎に手を当てて難しそうな顔を浮かべる彼女に振り返って、銀時はその内、ふうと一息を吐いた。

「なんか頭使ったら甘いもの欲しくなったわ。マスターお団子一丁。」
「はい。」

軽い冗談でそう口にした銀時。
だが、その瞬間に狙い済ましたかのように銀時の机に苺パフェが差し出された。
それを見た銀時はぽかんとして、不思議そうに彼女に目を向ける。
銀時が何かを口にしようとした瞬間、彼女は自らの唇に人差し指を当てて、しーっと囁いた。

「わたしのおごり。内緒にしててね。」

そう言われてしまえば素直に声を出すことも出来ず、銀時は言葉を失った。
直後、彼女は店長である老夫婦、銀時曰くジジイとババアに呼ばれて銀時から背を向けた。
ぱたぱたと走って行く彼女の足音を聞きながら、銀時は手を伸ばしかけて、はっとする。

慌てて手を自分の元の位置に戻すと、銀時は決まりが悪いようにケッと吐き捨てた。

「…ま、いいか。」

◆夢は夢
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