□くだらない事で悩める時間
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大は小を兼ねるとはよく言う。
確かに何事においても大きい事は良い事だとは思う。
しかし、大きすぎた所で手に余るほどの事だってあるし、逆に小さくてよかったと思う事柄だってあるかもしれない。
けれどもやっぱり世の中意識に残るのは小さな出来事よりも、大きな出来事の方で。

「…まだ気にかけているのかね、女性の悩みを。」

喧しい。というか女性の悩みだと知りつつ、それをわざわざ口にするな。
マイルームの中で膝を抱えてしょげる自分に、優雅に手製の椅子に座りながら呆れたように声を投げ掛けてくる我がサーヴァント。

ああ、そうさ。気にかけているさ。
女性だもの、その位気にかけて一体何が悪いと言う。
女性だもの、少し位身体的にコンプレックスを持ったって何が悪いと言う。

後ろの赤いのに聞こえるように、ぶっきら棒な声で言ってやれば、やれやれと彼が苦笑を零したのが聞こえた。

「だがマスターよ。たかだか胸部の事を気にかけたところで、別段戦いに支障があるわけでもなし…そもそも、意味もない徒労だろう?」

女性の悩みなどまるで知らない男性は、あっさりとそう看破した。
ああそうさ、そうさ。どうせ意味もない徒労ですともさ。
どうせ桜さんの最強さにも、蒼崎姉妹の最強さにも、ましてやバーサーカーにすら敵わんさ。
自分の胸なんて蟻んこ以外の何者でもない。
……どうせ自分の肉体では、彼が満足できるような、少しでも眼福してくれるような身体にはなれないさ。

勝てるところなんて一つもないさ。と、自分がふっと不適に嘲笑う彼をねめつけるようにして、自虐を繰り返して表情を曇らせる。
普段ならば今のような一言を放った彼にすぐさま掴みかかって、対してダメージにもならない攻撃を二、三仕掛けるのだが、今の自分には、巨の女体に当てられた自分にはそこまでする気力が無かった。
そんな自分の異変に気付いたのか、アーチャーはいつもの嫌味を口走る事もなく、暫し黙り込んで沈黙を貫く。

「………確かに男にはその手の好みには少々煩い生物だ。
しかしだ、言わせて貰うならば私は別に君なら何でもいいと思うのだがね?」

…男は皆同じことを言う。

一瞬彼の放った言葉の意味に動揺してしまいかけるが、冷静に考えて彼のフォローはあくまでも一般的なものなのだと自分を落ち着かせる。
どうせお前もそうなくせに。と、此方がふんと鼻を鳴らせば、彼は聞こえるように溜息をついてきた。

「やれやれ、困ったお譲さんだよ君は。」

けれども何処か嬉しそうにくすくすと笑う声が耳に入る。
そんな皮肉屋の言動が、嫌に気に食わなくて仕方ない。
何が可笑しいのだとむすっとして振り返れば、彼は目が逢った瞬間に笑顔になって、ふるふると首を左右に振った。

「いいや、可笑しい所など何もない。可愛くなっただけだよ、君があまりに俺の事で一喜一憂してくれるものだから。」

すると、彼は座っていた椅子から立ち上がると、つかつかと此方に歩み寄って隣に腰を下ろした。
そして、ぽん、と優しく頭に手を乗せて緩やかに撫でる。

………だ、誰も、アーチャーの為、とはだな。

彼の穏やかな行動に面食らって、つい声にも動揺が走る。

「おや、では私ではない他の誰かか?
…それならそれで、俺は対応を改めるが、」

そう言う彼の瞳はどこかぎろりと妖しく輝いていて、ぎくりと震えてしまう。

…けれども、確かに。ああ、そうだ。
意地は張ったものの、自分が此処まで一喜一憂することや心動かされるのは彼の事でしかない。それ以外今の自分にはない。
こんな風に心を焦がしてくれるのも、真っ直ぐに向ける相手も今はただ一人、貴方以外他には居ないのだ。
心の中では素直にそう思うものの、けれども、素直にそれを口にする事は如何にも心が納得行かずに、出来なくて。

…アーチャーなんて、嫌いだ。

素直な想い等は一ミリも吐き出す事はなく、心にもないことを言う。
しかしアーチャーは少しも動揺する事も、ましてや悲しむ事もせず、とんでもない事を言われたと言うのに、ゆったりと笑みを浮かべていた。
やがて、自分の額に手を当てると軽く髪を掻き揚げて、そこにこつんと自身の額をつけてきた。

「そうか、それは困ったな。俺は君が好きなんだが。」

さらっとそう述べる弓兵に、此方の心臓が激しく波打った。
言葉の意味を頭が認識すると、徐々に身体が熱くなり、顔から火が出そうな程に顔面が火照った。

…だから、よくも!そう言うことを!!!

◆まったくとんでもない

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