□苛めっ娘と苛められっ子
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「ウェイバーちゃんってさ、わりと女顔してるよね。
なんとなく女装とかしたら超似合いそう。」

その白野の放ったたった一言。
ウェイバーにとっては悪夢の始まりで、白野にとっては楽しい遊びの開催の合図。
不適に唇を歪めた白野は、いい獲物を見つけた狩人の瞳をし、ウェイバーはその視線を浴びつつ椅子を蹴るようにして立ち上がる。
がたんと激しく椅子が後方へ倒れたのと同時に、白野も椅子を引いて立ち上がった。
ウェイバーが駆け出したその直後に、彼女もその背中に食らい付き、「待て」と叫ぶ。
「あらあら、お友達と喧嘩しちゃだめよー」という和やかな淑女の声が聞こえるが、そんな生易しいものじゃない。
恐らくこれから繰り出されるのは喧嘩にも到達しない一方的な暴力であろう。
どたどたと揃わない足並みで廊下を走り、ウェイバーは階段を駆け上がる。
一直線に現在自分の部屋にしている場所に進んで、兎に角鍵をかけて引き篭もる。それしかないと判断した。
絶対振り切らなくてはと、足を速めて扉が見えた瞬間に必死で手を伸ばした。
前のめりになりつつ地を蹴って、ドアノブに手をかけたその瞬間、

「はぁ〜い、ウェイバーちゃん逮捕ぉー……」

荒い息交じりの悪魔の囁きが背中に突き刺さった。
ぐいっと首根っこを掴まれて、後方へと引っ張られる。
ウェイバーは蛙の潰れたような鳴き声を発して、そのままばたんと後ろに倒れこんだ。
その際にごちんと床に頭をぶつけて、軽く悶絶する。

「何故、ベストを尽くさないのかッ!?」
「尽くしたくねえよそんなベスト!!」

ぜえはあとどちらも息絶え絶えに、けれどもまだ弱弱しく部屋の前で叫び始めた。
ばんっと両手をウェイバーの顔の横につけて、その顔を覗き込む。

「本当一度やってみてよ、絶対ウェイバーちゃんなら似合うって。」
「やだ!馬鹿にすんなッ!」

真顔で彼に問い詰めながらも、その顔にはくっきりと「おもしろそう」と言う興味心に満ちた字が描かれていた。
確実に自分を遊び物にする気だと疑って病まないウェイバーは肩で息をしながら断固として反対する。

「じゃあ私も女装するから。ね、それならいいでしょっ。」
「っていうかお前が着る場合は女装って言わないだろ。」

女性である彼女が女性の服を着たところでなんら変化は無い。寧ろ普通だ。
話は少し変わってしまうが、最近は女子も男性の服を着ていてもほぼ違和感は無いのに、男性が女性の服を着ると違和感が非常にあるのは一体どういうことだろうか。
それはさておき、白野はウェイバーの言葉にきょとんと目を丸くして首を傾げる。
そして暫し考えた後に、非常に冷静に

「ああ、そうか。私可愛いからね。」
「じゃなくてッ、女!お前っ、お・ん・な!」

天然なのか本気なのか良く分からないボケをかます白野に、ウェイバーはほとほと呆れた。
くさくさする思いで彼女の鼻先に指を差せば、再度白野は首を傾げる。

「じゃあ私が男の格好して、ウェイバーちゃんが女の格好なら文句ない?」
「あるだろ、どう考えても!」

この期に及んでまだ突飛な発案を繰り出す白野に、ウェイバーは握り拳を固めて床を叩く。
すると白野は唇を3の字に作った後ふう、と溜息をついて肩を竦めた。

「もー、我侭だなあ。」
「っていうかなんでお前はそんなに僕に女装させたいんだよッ」

我侭なのは一体どっちだ、と怒りを含めて彼女に怒鳴れば、それ以上の気迫を持って彼女は腕を振り上げて自身の胸を叩く。

「可愛い子の可愛い姿を見たいと思って一体何が悪いというの!!」

鬼気迫る迫力の白野に、ついウェイバーは絶句した。
…いや、可愛い子って。
いや、僕は男だし。
いや、悪くはないけどおかしいし。
つーか、お前はそんな程度に何でそこまで真剣に…
色々と言いたい事があったものの、それら全てを飲み込んでしまうほどの彼女の熱意に敵わず、ぽかんと間抜けに口を開く。
じっとウェイバーを見つめていた双眸は瞬きをした瞬間に、普通の色に変貌した。

「まあ、ウェイバーちゃん相手じゃないと此処まで迫んないしね。」

やがて、はふうと間抜けた溜息を吐いてからころっと緩やかな顔つきへと戻る白野。
ウェイバーは彼女の変わりように暫し呆気に取られるものの、やっと此方が口を開けるような間合いを取れた事を知った。

「…それは、僕が弱いからかよ。」
「それもあるけど、」
「あるのかよ」

不貞腐れながら吐くウェイバーに、慰めることも否定することもなく、すんなり肯定する白野。
んーっと白野は暫し考え込んでから、白野はウェイバーの額に口付けを落とした。

「特別的な意味が一番強いですかね。」

「…な…っ……」

◆勝者、白野

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