□良妻狐の愛は強く
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「突然ながらキャスターさんの、お悩み相談室ぅーっ!」

ぱちぱちぱちと手を叩きながら、アイディンティだと言う尻尾と耳を存分に振って登場するキャスター。
またうちのサーヴァントは一体何を始めたんだろうか、と気後れするも、なんのかんので彼女に付き合ってみる。
彼女は何処から取り出したのか、ホワイトボードのようなものを持ってきて、そこに黒いマジックで徐に何かを書き出した。
…意外に字が上手い。なんて如何でも良い事を視認したりする。

「はいっ、それではですねご主人様。
このキャスターさんになんでもかんでも聞いちゃってくださいな!
あ、私への質問はここでは受け付けませんから。どこかよその世界の本編シナリオを御覧下さい。」

本編シナリオって何だよ。
相変わらずに言葉の節々に突っ込みたいところが散りばめられているが、まあ…これもいつもの彼女なので気にしないとあえて目を伏せた。

「ささ、ご主人様!なんなりとこの良妻狐に窺ってくださいなっ。」

尻尾を惜しみなくふりふりと降らせてずいっと此方に詰め寄るキャスター。
そんな彼女にちょっと引き気味になりながら、自分はうーんと考える素振りを見せた。
とは言えども、彼女に聞きたい事は今は然程はない。
あるにはあるけれどもそれは疑問と呼べるほどに形にはなっておらず、かといって今更聖杯戦争の事をどうたらと聞くのも…

じゃあ手始めに、と此方が口を開く。
するとキャスターはにこやかに返事を返してくれた。

「バッチコーイご主人様ッ」

じゃあ、キャスターから見た俺ってどんな風?

…最初の質問にしては若干当たり障りのない事だと思う。
実際自分の評価は気になっているものだし、よもや敵となっている他人にはこういう事は少々聞きにくい。
キャスターだからこそ出来る質問を投下すれば、キャスターはきょとんとしてから、暫く悩んで黙り込む。

「んー…ご主人様、ですかぁ。
まあ、多少モブっぽいところがあったり、ちょっと頼りない所があったり、

後女難が強かったり、
後女が変に群がってきたり、
後無駄にハーレム作ったり、

とかしますけど、…まあ、良い意味で平凡で冴えなくて味の無い御方だと思いますよ。」

…所々同じような意味が含まれていたのは気のせいか?
しかし、慎二の取り巻きやら、影が薄いやらと散々な言われようをされてきては居たが、自分のサーヴァントにまでそれを指摘されるとは思わなかった。
というか、自分が聞きたいのはそれじゃなくて。
そう、此方が改めて彼女に訴えようとした。

「でも、マスターとしては私の中では最高クラスですよ。」

その次の瞬間、此方が改定しようとした質問をまるで分かっていたかのように、さらりと答えるキャスター。
驚いて言葉をなくせば、彼女は目を細めて口元に弧を描いてみせると、大人占めな声色で淡々と語り始めた。

「というか、私のご主人様が最高でない訳無いじゃないですか。
私はご主人様を最高だと認めたうえで此処にいるんですから。

…ま、ちょーーっと、他の女達に優しすぎるのは頂けないですけど。」

と、語るキャスターの表情はにこりと穏やかな笑顔を向けているのに何処か暗い。
若干背筋がヒヤッとする思いを抱えていれば、キャスターが声色を変えた。

「ですがこの良妻狐、どんな逆境にも負けません、いいえ負けてやるものですか!
幾多の女が現れても呪術で、……ああいやいや、根性でなぎ払って見せますとも!!
それでもダメならご主人様を強制虚勢ですが。

つーかぶっちゃけ聖杯戦争よりも、私はご主人様との愛の方が大切なんですッ」

がばっと両腕で抱きついてくるキャスターに、体制を崩しかけながら自分は狼狽して片手で彼女の肩を叩いた。

「聖杯戦争なんて外野にやらせておいて、私達は良い所をちゃちゃっとつまみ食いしちゃうのが一番ですよっ。」

いや最後に残るサーヴァントが一番強いんじゃ…

此方が至極全うな事を呟けば、キャスターはぶんぶんとにこやかに手を振った。

「愛の力には敵いませんって。」

簡単にそう豪語できるサーヴァントに、面食らった。
そして、思う存分呆けた後にぷっと噴出した。
彼女がこんな軽い調子で自分を支えてくれているから、自分は折れずに居るのかもしれない。そんな事を微かに思って肩の力を自然と抜く。
すると、気付いたキャスターがふふっと華のように笑ってくるりと振り返った。

「やっぱりご主人様は笑った方が最高にイケメンです。
…このキャスター、不肖ながらに頑張らせていただきますので、ですからご主人様もその笑顔をなくさないでくださいね。
私、ご主人様の笑顔が大好きなんですから。」

直情的、かつ一番心に響く言葉をくれる彼女にじわりと胸が温かくなった。
彼女の言葉はいつも優しい。優しくて、そして勿体無いくらいの温かさ。

……ありがとう。

此方が素直に浮かんでくる言葉を述べれば、キャスターは恥ずかしげにはにかんだ。

◆優しい良妻狐

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