夢色シャトル

□じゃれあい?いいえ、本気です。
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「なんでえみかは手前なんかがいいんだろう。」
「なんだよ陽介、またその質問?」

妬いてんの、陽介ちゃんたら。と茶化したような余裕のある惚れている女の彼氏の笑み。
いかにも此方を小ばかにしたような表情に、陽介はぴくりと眉を動かす。

「いやほんと。なんで手前なんかがあいつの彼氏ポジションで居られるのか、マジで悩む。
こんなに軽薄で浮気男で救いようの無い馬鹿でやな奴なのに」
「ちょッ…そこまでひでーこと言われるとマジ泣けるんですけど?!」

あんたそれでも友達か!と半泣きで怒鳴る京介に、
友達じゃねえよライバルだよ!と逆に声を張り上げる陽介。
どんっと机を叩いて苛立ちを露にすれば、「やだ、陽介くんったらこわーい」と甲高くした声で更に此方の神経を逆撫でしてくる。
目の前のお坊ちゃまはどうしても此方を馬鹿にしたいようだと陽介は怒りによってふるふると肩を震わせた。

「俺の方がお前よりももっと早くにあいつの事を見ていたのに」

ぼそり、と呟いてからこれ見よがしに溜息を吐いて、陽介はむすっと頬を膨らます。
若干シリアスめな雰囲気を際立たせるも、そんな陽介をけらけらと笑って京介はえへんと胸を張った。

「そーさね…悔しかったら肋骨折れても二分で治るようになってみろ。
そしたらちょっとは鼻にかけてもらえるかもよー?」

此方の気持ちを察して少しは大人しくするでもなく明らかに挑発してきた彼の言葉に、陽介は額に青筋を浮かべる。
思わず出来るか!と正論を返してやろうとするが、だがしかし、彼のいう事にも一理はあるので容易に一蹴出来ない。
うぐ、と一旦言葉を押し留めて黙り込んでいれば、すかさず京介が陽介をにやにやと嘲笑ってきた。

「大体個性的な連中の中で陽介めっちゃ地味だし」
「地味というな、まともと言え!手前とか羽柴とか藤原に比べたら常識はあるほうだわ俺のが」
「ハッ、馬鹿だね。常識があっても面白みがなくっちゃこの世界生き残れないよ?
俺なんか、毎日えみかの日常に刺激を与える為に、そしてえみかにストレス発散をしてもらう為に常に浮気心だけは欠かさないようにしてるんだから!」
「なにどや顔して語ってんのこの人。
手前がえみかに与えてるのは刺激じゃなくて、苛立ちという身体に悪い成分の間違いだろうが。
浮気相手の女も可哀想だが、何よりもえみかが可哀想だろ。」

その言葉に先程まで優位に居た京介がかちんときて、やや表情を険しくする。

「なんでわざわざんな事陽介に言われないとなんないわけ?えみかが可哀想なんてわかるのかよ。」
「わかるよ、伊達にえみかだけ見てねえよ俺だって。
この間だって食事した時に手前の愚痴ばっかり聞かされたし…」
「は?!じゃあこの間、えみかが友達と遊びに行ってくるって言ってたのは、お前の事だったの?!
なに、なんで?なんで俺に言わないのえみかっ」
「知るかボケ。そんだけ頼られてねーって話だろうが。」
「ムカーッ!!なにそれ、なんだソレ!えみかは本来の所じゃ俺を一番に頼ってくれるもん!」
「へえ、そうよかったね(棒読み)。
愛する女の為に他の女を鼻にかける馬鹿に頼るなんて、えみかもなんて寛大な奴なんだ。」
「じゃあお前には出来るの?愛する女の為に、他のものを総て捨てて賭けられるのかよ!」
「アホか、そのくらいの覚悟とっくにあるわ!何年片思いしてると思ってんだ!」

京介のからかいに陽介が乗れば、陽介のえみかへの気持ちの真剣さとまともさに段々腹が立ってくる京介。
いつの間にか大人しかったはずの二人の声は両者共々大きくなり、クラスに居たほぼ多数の瞳を集めていた。

「口だけって事はないよねえ?やるんだったら誠意見せろよッ!!」
「えみかが振り向いてくれるなら、語尾をのっぺろぴょーんでも、あびゃきびゃびにでもなんでもしてやるよ!」
「やだなにこの人、恐い!!」
「手前が誠意見せろって言ったんだろうがァァア!!!」

ここまで言い争いを続けてきたが、ついに堪忍袋の緒が切れた陽介は、京介の首根っこを両手でがしっと掴むと左右に揺らす。
ぎゃーと雄叫びを上げて真っ青になる京介を見て、目を輝かせためぐみがおっと席を立った。

「なになに、喧嘩?やれやれ、あたし陽介に賭ける!」
「見世物やってんじゃねえんだよ!藤原どっか行ってろ!!」
「はっ!?テメ、なにあたしにそんな口きいてんだよッ、……つーか陽介と京介って普通に仲良いよね。」
「ふざけろ、全然よくねーよ!!」
「めぐみの目は節穴か!何処見たらそうなんだッ!!」

「(何処も何も…)」

ぎゃーすかと喧しく声を張り上げる二人を左右に見つめながら、めぐみの脳裏には唐突に喧嘩をおっぱじめる猫やら、吼え始める犬同士やらの姿がふと浮かんだ。
あるいは、玩具を取り合う子供の図。

「(まあ、本当に嫌いならまず顔も合わせたくないだろうしね。)」

◆それでも僕らは本気です。

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