夢色シャトル

□安らげるのはあなたの隣
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目を覚まして、華南は自分に起きている状況がまるで理解できなかった。

確かつい先程まで自分はいつも通りに一方通行に強く言い寄っては跳ね除けられ、素っ気無くされ、「遠くに行ってろ」と疎まれて止むを得なく彼の部屋の外に座って様子を窺っていたはずだ。
コンクリートの階段は女の子には少し寒くて痛くて辛いが、彼から離れるのに比べればとてもマシで、いつしかうとうととして寝てしまっていた。

そうして今、目が覚めればどうした事か、投げ出されていた自分の膝には、何故か此処に居ないはずの一方通行がすんすん寝息を立てて眠っていたのだ。

覚醒したてのぼーっとした思考は、次第に霧が晴れるように明確になっていき、膝の上にある重みに気づけば、一度瞼をぱちくりさせて驚いた。
コレは一体どういうことだろうと問い掛ける相手もそこにはなく、また一番問い掛けたい相手は残念ながら夢の中だ。いつ彼はここに戻ってきていたのだろう、もしかして部屋の中が悲惨な状態になっていて眠れなかったのだろうかと華南は少し不安を覚えて思案する。
だが、自分の膝の上で瞼を閉じて無防備に寝ているその姿を確認すれば、そんなちっぽけな不安など軽く飛んでしまった。

…可愛らしい。
男性にそんな事を思うのは恐らく失礼な事だし、多分彼にとってはそんな事を言われたら鳥肌が立って自分を殴ってくるくらいの嫌悪を表すに違いないだろう。だからこそ口には出さずに心でだけ、そう呟いて浮かんできてしまった感情にほのかに揺らしながら華南は目を細めて彼を見た。

すやすやと眠る無防備な横顔。
人間は一番無防備な姿を晒すのは就寝の時だという。
だとすれば、普段無防備ではない彼がこうして自分にこんな姿を晒すのは、それなりに自分を信用してくれていると自惚れても良いのだろうか。

とくん、といつも彼に接する時の激しい胸の高鳴りではなく、柔らかな、優しい音程が胸の中で響く。
そしてきゅうっと胸が締め付けられるような息苦しさに襲われた。

愛しい、と自然と言葉が浮かぶ。
その話し方も、吊り目も、声も、身体も、髪の色も、背丈も、彼であるもの総てが総て愛おしい。

眠っている時だけだから、と。そっと柔らかな彼の髪を撫でれば、胸の中に不思議な温かさがふわりと舞った。
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