夢色シャトル

□寒さに負けず、人の熱さに敵わず
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「椿、プレゼント。」

しんしんとした寒さが広がる雪の振った後日、嬉々として笑う彼が椿の目の前に白銀の結晶で作られた雪だるまがひょこっと差し出された。
彼の片手にちょこんと収まっているその物体を目にした椿はぱちくりと瞼を上下させた。

「……歪ね、凄く。」
「可愛くないご感想ありがとう。
しょうがないだろ、片手で雪だるまなんて造ったことないからちょっと不恰好なんだよ。」

普通の丸い雪だるまとは違い、どこか凸凹としていて華南と言うよりも若干三角に近い雪だるまに椿が率直な感想を述べた。
けれども口ではそう言いながら、椿は物珍しそうにこてんと首を傾げて雪の塊を眺める。
苦笑いをして顔を引きつらせた陽介は、開け放たれている襖の先を目にして、少しばつが悪そうに呟く。

「本当はもっとでかいの作ってお前を驚かそうと思ったんだけどな、」

と、そこまで言って言葉を一方的に区切らせる。
椿にはその言葉の続きが一瞬で理解できて、だらりと力なく項垂れている手を見つめた。

椿がじっとそれを眺めていれば、気付いた陽介がへらっと笑みを浮かべて少し肩を揺らして見せた。

「なんか今の俺誰かに麦藁帽子とか預けられそうだよな。」
「何言ってるのよ。」

突然良く分からないたとえ話を出してきた陽介に、椿は眉間の皺を濃くして彼をねめつけた。
そんな彼女の視線を浴びつつも、陽介の表情は変わる事はなく、笑みを浮かべていた。

「というか、こんなもの私は要らないわよ。」
「折角雪が降ったから作ったのにこんなもの扱いはないだろ。」

まったくと肩を竦めつつも、陽介の掌に置かれている雪だるまに再度視線を移す。
椿はそれを忌々しそうに、けれども何処か懐かしげに瞳を潤ませた後、ふんっと顔を背けた。

「気持ちは嬉しいけどね、でもそんな赤い顔してまで一生懸命作られたって……どう反応すればいいのか、困るわよ。」

そんな椿に陽介は軽く首を横にして、あーっと唸り声を出す。

「いや、別に反応をしてもらう為に作ったわけじゃないし…あ、嘘。ちょっと求めてたかなー。」
「はあ?」

はっきりしない陽介の言い草に、苛々として椿が目尻を上げて彼をねめつける。
陽介はぎくりとすると、観念したように心内を明かした。

「本音言うと、間近でその目に季節感溢れる景色を見せてやりたかったという、そんだけでさ。」

陽介はそう笑うと、つまりはただ椿の目を楽しませたかっただけなんだ、とそう口にした。
そんな陽介の笑みにぱちくりと目を上下させて、椿はぽけっとする。

「…本当に馬鹿なんだから。」

むうっと頬を膨らませた椿は、深く溜息を吐き出した。
また馬鹿って言ったな。と、陽介は肩を竦めながら笑みを浮かべた。
すると、椿の方が更にむっとして陽介の胸倉をぐいっと掴む。

「貴方ね、そんな子供だましな物で私の目が楽しむとでも?
私にとっては寒い冬の日こそ、ただ何もせずに隣に貴方が居てくれるほうが十分助かるわよッ。
か、カイロ代わりに……

……いい加減に理解しなさいよ。」

陽介はぽかんと椿をじっと見つめる。
我に返った椿はその視線に耐え切れなくなって、彼をすぐさま突き放した。
徐々に朱色に染まっていく頬を悟られないように、さり気無く長い髪で顔を覆い隠した。
呆然としていた陽介はやがて嬉しげにへらっと笑う。

「どっちかというと俺の方が熱烈なプレゼント貰った気分だな。」
「…もう、ばか。」

ほんの僅か、陽介に振り返った椿はもじもじと呟くように返した。
そんな彼女をじっと眺めて、何かを思いついたように陽介は、ちょいちょいと自身の唇を指差す。

「…でも、出来れば雪も溶かすような熱い口付けしてくれたら更に嬉しいかなー…」

だらしのない顔で笑う彼を見て、椿は軽くぽかんとする。
けれども言われた意味を漸く頭の中で理解すると、顔を真っ赤にして彼の頬を軽く引っ叩いた。

「ばかッ。」

◆調子に乗るな!


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