夢色シャトル

□親しき仲にも拘らず
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両儀式は他人との関わりを極端に嫌う人間だ。
しかしそんな彼女には唯一自ら関わりを持とうとする人物がたった一人だけ居た。
その人間は彼女の親類の人物であり、彼女もまた少し変わっていた、らしい。
らしいと言うのは彼女と接した幹也から見た客観的な曖昧部分だ。
なにせ幹也から見ればその少女は普通となんら変わりなかったのだから。

「幹也っ。」

何気なく廊下を歩いていれば、きょろきょろと辺りを見渡していた少女が幹也を発見した途端、まるで犬のようにはしゃいでぱたぱたと駆け寄ってきた。
隣の学人がとんでもない形相で彼女を眺め、やがてその視線は幹也にまで注がれた。
彼女が軽やかな足音を響かせて、とんと足を着く。

「や、幹也。本日もお日柄もよく?元気?今日も遊べる?」

軽く腰を折り曲げて、此方の顔を除き窺う体制になる彼女。
幹也は笑顔でそれに対応して、こくりとまず頷いた。

「うん、元気。君の方こそ、どうかな。」
「やだな。そんなの見れば分かるじゃん?
これでもかってくらい元気で困るよ。」

その言葉を証明するかのように、くるりと彼女はその場で回る。
彼女を包んでいる淡い黄色のコートがふわりと舞った。

「ははっ、本当だね。」

幹也は軽く笑い返して、彼女に転ばないように。と一言忠告した。
すると彼女は頬を膨らませて、見るからに不機嫌な顔を幹也に向ける。

「別に私そこまでおっちょこちょいじゃないし。まあ、転んだらいざと言うときは幹也が助けてよ。」
「いやいや、ないように気をつけてよ。」

そんな自体逢ったら直ぐに助けるけどさ。
そう幹也は続けるものの、自身のおっちょこちょいを裏付けるような台詞に幹也は肩を竦めた。
うふふと笑う彼女と二、三台詞を交わした後やがて彼女は「先生に用が合ったんだ」と本来の目的を思い出して、幹也の前から去り、幹也は風のように現れて、風のように去っていった彼女を素直に見送った。
一連の行動を見守っていた友人は、つんつんと、幹也の脇腹を突いた。

「おい、黒桐。お前、あれ恐くないのか?」

あれ?と、彼が形容する意味が分からずに幹也は首を傾げる。
見れば彼が指差した先には、先程まで無邪気に自分と会話を繰り広げていた可愛い少女。

あれ、とはつまりは彼女の事かと漸く理解した幹也は、どういう意味だ?と学友に問い掛ける。

「どういうって、お前さ。“あれ”も両儀と同じ部類だって知らないわけじゃないだろうな?」
「ああ。」

あれも両儀と同じ部類。
それを聞いて尚、幹也は顔色一つ変えることもしなかった。
寧ろ、それを聞いたからこそ余計に顔色なんて変えることはなかった。

「知ってるけど…だからなんだよ。」
「馬鹿っ。だ、か、ら、恐いんだろうがよ!あの両儀の親類だぞ!」
「大袈裟な。」

幹也には、とことんまでに彼が怒る意味が理解できなかった。
式は式、彼女は彼女。
別人であるのに違いないし、彼女はどちらかと言うと人との関わりを遮断する式と違って、それなりには応対は受け付けるというのに。

「(性格的には識っぽいというか…)」

明朗で、快活で、常に楽しそうに笑顔。
その中身は外見こそ全く異なるものの、確かに彼、及び彼女を彷彿とさせた。
それだからこそ、あの式とも付き合っていられるのだろうか。と幹也は一瞬思うも、多分根底にある血の繋がりも関係しているんだろう、と言うところに結局着地した。

「しかしよくもまあ、お前は可笑しな奴に好かれるもんだよ。」
「なんだよそれ。」

学人はやれやれとお手上げをして、半分本気で幹也をからかってみせる。

「言葉のままの意味だって言うの。特に両儀とは両面深い関わりがあるよな、お前は。」
「両儀…あれ、あの子も苗字両儀だっけ?」
「は?」

すると、そこで幹也はふとひとつの違和感に気が付いた。そういえば。幹也がそう遠くを見る。

「僕、あの子の名前まだ聞いてないや。」

幹也が今更思いだした途端、真横でひどく耳障りな低い衝撃音が響いた。
おや。と気付いた幹也がくるりと真横に振り返れば、そこには友の姿は忽然と消えていて、幹也はぽかんと目を丸くする。

更に驚いて何気なく背後を振り返れば、そこには力なく倒れてすっ転んでいる友人の姿があった。

「なにやってんだか。」
「お前がな。」

実に皮肉めいた友人の声と、呆れた瞳が幹也を突き刺した。

「何回もあいつとつるんでるくせに、なんで名前の一つもわかってないんだよ、このボケ。」

◆流石幹也

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