夢色シャトル

□確信犯に出会いました
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家の扉を開いて飛び出せば、曲がり角を曲がる直前に誰かと正面衝突した。
手に持っていた携帯をぽろっと落とし、自分もまた後ろに転がる。
どすんと思い音を立てて尻餅をついて鈍い痛みがじんわりと広がった。

「い……ったあい……!」

小さく悲鳴を上げるものの、相手に聞こえないようにと頑張って口を噤む。
腰の痛みに顔をゆがめつつも、空っぽになった手を何度か握って華南はそこですかっとしたやけに空虚な感覚に気が付く。

「あ……あっ、ああっ、携帯ーっ!」

まさかと思って華南が自分の手を見れば、何もないそこに青褪めて彼女は首が取れんばかりの勢いでぐるぐると周囲を見渡す。
そして、地面に転がっている自身の携帯に気が付くと叫び声を上げながらそれにどたどたと近づいた。
携帯を慌てて手に取ると、表面の赤い塗料が若干はげていることに気付く。
恐らくは衝撃を受けた事によって、剥がれてしまったのだろうと予想すると激しい落胆と、悲しみが彼女を襲った。
お気に入りの携帯だったのに。しかも、携帯ゲーム途中だったのに。
ゲームオーバーになってるし。もう、やだもう。何。なによもう、誰よもうっ。とそこで漸くふつふつと怒りが湧いてくる。

キッとぶつかった相手を射る様な視線でねめつければ、そっと目の前に手が差し出された。

「大丈夫?ごめん、僕の不注意で…」

高くはあったものの、女性にしてはやや低めな声色で漸く相手が男性だとそこで理解する。はたと気付いた華南はぽかんとして、僅かに戦意がそがれてしまった。
なにせ男性はゲーム等ではかなり付き合ったり、接触したりはあるものの、三次元の男性なんて…。

「ッ!」

思わずその手を取らずに遠退けば、目の前では眼鏡をかけた少年が不安そうな顔で此方を除いている。

「あ、う、あ…………!」

あからさまに激しく動揺した華南は、口をパクパクとさせる。
脳内ではぐるぐると纏まらない
何で選択肢が出てこないの。こういうときゲームなら直ぐ選択肢が出てくるはずよ。いいえ、出てくるの。お願い出てきて!
すると、相手の少年がずいっと此方に顔を近づけてきた。

「あれ。君…、」
「っ、……ちっ、ち、近づかないで!!」

彼が携帯を指差した瞬間に、華南は大声を上げて彼から遠退く。
叫んだ後で冷静になった華南は、先程自身が放った言葉をもう一度良く考えるとばっと自分自身の口を両手で塞いで青褪めた。

「(わ、わた、わたし。初対面の人になんて言葉を…!)」

初対面の相手、しかもぶつかった相手にとんでもない口を利いてしまった。
ごめんなさい。たった一言。ごめんなさい。
そう言うだけで気が済むはずなのに、どうしてかその言葉は口から直ぐには出てこない。拒否をする、罵倒をする言葉はあんなにすぐに出てきたはずなのに。
泣きたくなる気持ちでいれば、ぽん、と彼は華南にハンカチを投げる。
自分の携帯の上にはらっと乗ったハンカチを見て、華南はぽかんとした。

「それ、貸すよ。…スカートの汚れ、取った方がいいよ。」

弾むようにそう口にした彼に顔を上げれば、既にそこには居らず、まさに忽然と消えてしまっていた。

それが、華南の早朝の出来事。

あれから暫し呆然としていた華南は、後に自身の学校に登校して、その時の出来事を走馬灯のように思い出していた。
改めてよく考えればなんてベタ過ぎる出会い方だろう。
なんだかまるでゲームでよくある展開、あるいは漫画である展開みたい。
そんな事を華南が思うも、すぐさまぶんぶんと頭を左右に振って先程の考えを打ち消した。

「(違うわ!だってああいうので出会うのは必ずイケメンであって、あんな地味目な普通の眼鏡男子じゃないもの!
ああいう眼鏡男子っていうのは、もっともっとモブキャラ的な立場に居るものよッ。イケメンキャラを持て囃したりして、「おーい、●●。教師が呼んでるぞー」なんていう……)」

そこまで考えて、華南はやっと我に変える。

「……まあ、どうでもいーや。」

華南は再度携帯を開いて、心頭滅却の為に簡易ゲームをし始めた。

◆仕組まれた出会い


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