夢色シャトル

□本日も素敵な変態日和
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女性は大なり小なり、必ず胸について悩むことがある。
そんな事を友人から聞いたような気がした風呂上りの華南は自身の小振りな胸を両手で掴んで、鏡の前で自分と睨めっこをした。
正確には彼女自身の胸と、だが。

それだけではなく次には体重。
前日計測したところ、彼女は大変な事に2kgも体重が増加していたのだ。

乙女にとっての2kgと言うのは由々しき問題だ。
華南は今度は自身の胸から腰周りへと両手を回し、片手で下腹を撫でた。
確かに最近ちょっと食べ過ぎたような気がするけど、でもそれほどまでじゃないような。
いや、でも考えてみれば三日ほど前にそはらに誘われて一緒にケーキを食べたっけ?
それだけじゃなくて前にパウンドケーキを作った際にイカロスとニンフと一緒に食べすぎたような…
あれ、考えてみればあたしこの頃甘いもの食べすぎじゃないか。これちょっと。
もやもやと

参ったな。と、華南が自身の頭に手をつけて、がくりと落胆する。
最近じゃ周りにはとても麗しい理想系体系の女性達がただでさえ多いというのに。
こんなんじゃ幾らなんでも貧相と言うか凡庸というか、一生日の目を浴びないまま終わってしまう。

「流石にそれはなあ」

嘆くように華南が苦笑して、何気なく顔を横に向ける。
ふと見ればそこには青々とした空とちらりと見えるいつもの隣の家の景色。
の、はずなのだが。

「あ、」

鏡と睨み合っていた華南は、窓から見える景色に一つだけ大きな違和感があることを発見し、目をぱちくりとさせて固まった。
おや。と考えるまでもなく、二頭身のぬいぐるみのような人物が縁側に乗ってこんなに近距離で望遠鏡を此方に向けて悠然と窓の外から覗いていた。
その姿を視認すると華南はびしりと音を立てて固まった。
さっと青褪めるのは彼女と視線がかち合っているその相手。

「やべっ、」

すぐさま乗っていた塀からぴょんと飛び降りて、一回転しながら地面に着地する二頭身智樹。
てってっと可愛らしい見た目で決死に駆け出しその場を立ち去ろうとするが、そうは問屋がおろさない。
直後、ごうという重い風音と共に、智樹が後にした壁塀が破壊音を立ててガラガラと崩れ去る。
背後から聞こえたその音に、智樹は小動物が震え上がるようにびくりとして、ぴたっとその場に立ち止まった。

智樹はその場で直立し、恐る恐ると背後を振り返る。
薄っすらとした砂塵の中から現れたる影は、言うまでもなく先程まで智樹が覗いていた人物そのもの。
仁王立ちになりながら、智樹が見ていた薄着の上からYシャツを風に靡かせて着込む華南。

「とーもぉ…きー……」

地の底から這いずり出るような低く淀んだ声色に、ぞぞっと智樹は一瞬のうちに全身に寒気が走った。
ここで余談ではあるが、華南はボクシングマニアであり、幼い頃から何かとボクシングを齧っていた。
更に言えば、体を動かすことならば術からず好きであるために、彼女は『なんとなく』でカポエラーも習っていたという過去がある。
智樹はその事を思い出すと全身の血の気が引いた。

華南は、べきばきと指の関節を鳴らしながら、にっこりと笑って一歩足を進めた。

「ちょ、待て!待て!!」

たった一歩、華南が踏み出しただけで、その地面は地響きを立ててびしりと軽く砕かれる。
人間業じゃねえこいつ。
そう智樹は一瞬脳裏で悪態をつくも、残念ながら目の前に起こっている事象は確かに現実であって。
撤退すべきか、それとも誤魔化すべきかと頭をフル活動させて考える。
ごくりと唾を飲み込んだ智樹はキッと前を見据えた。二頭身のままで。

「華南!落ち着け、まず聞いてくれ!
コレだけはお前に言わせて欲しい!」

すうっと息を吸った智樹は華南を眺めて、真剣に華南に訴える。
華南は訝しげに彼を見下しながら、けれども、ぴたりと足を止めた。
智樹は彼女にホッとしながら、彼も真顔で、そして声を高らかに上げた。

「無い胸を必死で隠そうと画策するお前の姿、悪くなかったぜ…。」

親指を立てて非常にいい笑顔を向ける智樹。
華南は彼を見て暫し呆然とすると、びしりとこめかみに青筋が立った。
再度、彼女の足が動く。

「それがお前の遺言かッ!!!」
「あっ、まって!やめて!不能にしないで!!俺はどっちかというと女は細身よりもふくよかな方が太股的な意味でいいんじゃないかと、っていうか並外れた体系の中であえて逆を行く並の肉体のお前は中々に俺としてはよ、ごぶふぇッ」

◆変態男と、乱暴女


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