睡眠時間

□口出し不可能領域
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「ねえ、華南ちゃん。貴女に聞きたい事があるんだけど、貴女って晶馬君のどこが良くて付き合ってるの?」
「はあ?」
「ブッ。ちょ。荻野目さ、なにを、」

多蕗家へと荷物を送り終えて、荻野目家に帰ってきた三人は苹果からの持て成しを受けている真っ最中だった。
そこで唐突に彼女の口から出た質問に、晶馬はぎょっとして飲んでいたお茶を噴出し、その彼の彼女はきょとんとして首を傾げていた。

「だって、華南ちゃんとこうしてきちんと話すのって久し振りだから、ガールズトーク的な事したいなって思ったのよ。
それに、彼女の視点から貴方の事をどう思ってるのか聞きたいし、」
「そんなのわざわざ僕が居る前で聞かなくても…!」
「なに、恋人の本音とか聞きたくないの貴方?意外に根性無しなのね。」
「っだ、誰もそんな事言ってないだろ!?」

というのも、これは苹果普段から自分へ色々な事を言ってくる晶馬への些細な逆襲のつもりだった。
自分とて付き合っている相手が居るくせに、散々自分にどうのこうのと言っている晶馬がとことんまでに頭にきて、この際だから彼を苛めてしまおう、と彼女がいるこの時を狙ってわざとこんな事を口走った。

何せ彼女は自分がちょっと晶馬との事をからかったり、彼の妹や兄が二人の間をからかったりすれば、怒った振りをして真っ赤な顔をして去っていくのを良くわかっている。
そしてその際に必ず言葉を鵜呑みにして、しゅんとする晶馬が居る事をわかっているのだ。

「(まあ、ちょっと晶馬君可哀想だなって思うけど…どうせ後でまた何事もなかったようにラブラブになるんだから、このくらいはいいじゃない?)」

華南は自分の言葉にきょとんとしながら、ふうと溜息をつく。

「申し訳ないけれど、私は彼の事を好きではないわ。」

流暢にはっきり物申した彼女の発言にぴくりと反応したのは晶馬だった。
分かりやすい彼の反応に苹果はしたり顔でにやりと笑う。
彼女がここでこう突っぱねるのは計算済み。ならば責めるのはここからが楽しいんだと、口元に弧を描いてにやけながら「そういう割にはいつも晶馬君と私が一緒に居るとに突っかかるのはなんで?」と流れるように続けようとした。
だがその言葉は間髪居れずに華南の一言に遮られる。

「愛しているもの。」

したり顔でにやりと不適に笑う彼女に、苹果はぽかんと口を開いて呆気に取られて、思わず口を開いたまま間抜けな表情を晒してしまう。
からかおうとしていたはずが逆に逆手に取られ、それどころか彼女にしては珍しい精一杯の惚気を受けてしまった。
いつの間にか手に力が入らなくなったのか片手に持っていた運命日記がぽとり、と膝に落ち、その音を幕引きにしたようにそっと華南はその場を後にする。

彼女の足音が徐々に遠ざかり、やがてばたんと扉が閉まった。
そんなに大きくもないはずの音だったが、しんと静まり返っている部屋の中ではとても響いて耳に残っていく。

「…!お、荻野目さんごめん!今日は僕も帰るね!」

唖然とするその中ではっと我に返った晶馬がその後を一目散に追いかけて、二度目の扉の音が響く。

「ちょ、華南!」

叫びに近い嬉々とした晶馬の呼び声に、華南が止まるのは間もなかった。
彼女はぴたりと足を止めて、顔を真っ赤にしながらくるりと振り返った。
背中には自分を追ってきた晶馬が迫っていて、目線を合わせるなり彼も彼で同じように頬を朱色に染め、その場で立ち止まる。

「な、なに…、晶馬。」
「…ぼ、僕も愛してる!」

恥ずかしげもなくさらっと放つ愛の言葉を、くすぐったそうに笑って耳にすると彼に近づき、はにかみながらその手に自分の手を合わせた。

「…知ってる。」

そんな二人とはうらはらに一人部屋の中で取り残された苹果はむすっとしてやるせない思いを叫んでいた。

◆「もー!バカップル!!」

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