夢絆

□一号変態武勇伝
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つい先程、久し振りに昔付き合っていた女に出会った。
だが、その女は自分が今まで付き合っていた多くの女性達の中で唯一平和的に別れた女性で、元々は自分の友人だった穏やかな女だった。
唯一自分が友人として、そして親友として今でも接せられる元彼女の顔を思い出し、帰路に着く。
恋人としては不向きな女性だったけれど、友人として見れば本当に彼女は最高だな、とふっと笑って冠葉は思う。

「(ああいう女関係も悪くはないかもな。)」

とは言えど、さっきのように彼女を利用してしまったのは少し申し訳ないと思う。
折角築いた良い関係なんだから大事にしていかないと、とは思っているのに…

「(まあ…あいつは軽い性格だから、多分気にはしてないだろうけど。)」

と、そんな事を思いつつ家の戸を開き、ふと一号の姿が見えないのに気付いて、冠葉は辺りをきょろきょろと見渡す。
とりあえず中に入ってよもや途中で置いてきただろうかと首を傾げれば、開いた扉の隙間からぺったんぺったんと平べったい足音を立てて一号が冠葉の後ろから気配を現す。
やってきたペンギンに冠葉は振り返った。

「なんだ?お前、確か俺の前を歩いていたはずじゃ…」

と、言いかけて冠葉はやってきたペンギンの所持していたものを見て唖然とした。

「……お前、手に何持ってる。」

きゅっとも、ぎゅっとも聞こえる声で鳴いた一号は、その手にあるものをまるで誇らしげに構えるとえっへんと胸を張った…ような気がした。
だが、そんなペンギンとは裏腹に、冠葉は額に手を当て深く溜息を吐く。

「なんであいつの下着を取って来るんだお前は…」

っていうか、どうやって取ってきたんだよブルマなんて…
つい先程出逢った彼女であり、今は友人である女性の顔を思い浮かべながら、冠葉はしゃがんで一号の手にあるものに目を向ける。
すると一号は見せびらかすようにして冠葉の前に、ブルマを押し出した。
再び冠葉は重い溜息をつく。

「…如何処理すればいいんだ、コレ?」

まさか「これ、落ちてたぞ。そそっかしい奴だなお前は」なんてにこやかアピールで彼女に難なく返すなんてことは行かないし。
というかついさっきこの関係を大事にしていきたいと言った挙句にこれじゃ、確実に仲が崩れるのは確定だし。
かといって、こんなもの持っていてもどうすればいいかわからない。
そもそも弟や愛妹に万が一見つかったらそれこそ自分は破滅の一途だ。

冠葉は頭を抱えて暫く考えていると、此方を除きこむ一号とぱちりと目が合った。
自分を心配しているかのようなその愛らしい姿に、少しばかり冠葉は心が揺れ動かされる。

だがしかし、悩みの元凶を運んできたのは間違いなくこの変態ペンギンに違いはないわけで…

「……一号。お前、今日のご飯いらないよな。」

きゅ?と首を傾げる一号。
冠葉はその仕種を見て見ぬフリをして、一号の頭を片手でがしりと掴み、彼から素早くブルマを引っ手繰ってその口に丸めて放り込んだ。
突然の行動に一号は暴れるも、冠葉の力からは逃れられず、結局無理矢理一号がそれを飲み込むまで口を押さえつけられることになった。

「(あいつにはすまないが…処理完了。)」

心の中で親友にとても申し訳のない気持ちを抱き、罪悪感がずきりと痛みながら気付かぬ振りをして冠葉はやっと部屋の中に入る。
後には息絶え絶えに地に伏せて、白目をむいている一号のみが残されていた。





「あれっ、あれッ?あれーっ、どうしよ私のブルマない!なんでぇ?!」

がさごそと自分の鞄を探り、華南はもーっと頬を膨らます。
つい先程まで履いていた様な気がしたブルマがよもや消失するとは思わず、華南はぺたんと部屋に膝をつく。
今日は何処でも脱いだ記憶なんて一切ないのに。
しかも理解したのがうちに帰ってきてから間も無くなんて。

「もしや私、今日履いてなかったとか…さてはそういうオチっすか…?」

そう考えれば履いていなかった気もするし、と華南は眉間を押さえてむむむと考える。

「あー…くそ、冠葉に逢った衝撃で痴呆症になりかけたああ…。」

がくりと両肩を落として明日からの運動、どうしようと華南は焦る。
だが、冠葉の事を思い出すとふと息が苦しくなると同時に先程の光景が甦ってきた。
そっと、先程彼が自分の唇に触れた部分に指を這わせる。
まるでそこは未だに熱を持っているように熱い気がした。

「(…ばかんば…)」

◆お互いの秘密

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