夢絆

□気まぐれ姫様、硝子の幻想を抱く
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一度目の失態は彼の前で落し物をしたことで、二度目の失態を晒したのも彼の前で思いもよらぬ落し物をしたことだった。
あの時自分の心は確実にとんでもなくかき乱され、そして確実に彼を重点にして心が揺れ動いていた。

だが不思議な事にあの時に大失態を起こした時は、酷く焦って心の置き場もないくらいにどぎまぎしていたというのに、今では全くその時の感情が湧かずに、寧ろ思い出せない。

破れた鞄を縫って一針一針進めながら、どうしてあの時彼の前ではこんな風にすんなりと針が進まなかったんだろうと疑問に思う。

折角だからと彼が家に上がって、その時にやってみせた部分の縫い目が酷く粗くなっているのを確認し、そして今縫っている部分の綺麗な一直線の縫い目を見て、華南はほとほと首を傾げる。
感情一つでこんなにもむらが出てしまうものだろうか。だとしたって、この違いの差はないと思う。

一針一針、再び縫い進め、華南は次第に退屈が沸いてきた。
いつものような退屈ではない、また別の、同じことを繰り返しやっているとその内飽きが来る方の退屈さだ。

一旦針を休めて気分転換に何か飲もうか、と思うもそこまでするのにも面倒だなと思って、とりあえずただ手を休めようと針を持ちながら肩の力を抜く。

ふうと大きめに息を吐いて、華南はやはり退屈だと考える。
いつものように妄想に至って入り込みたくも、残念ながら今自分が居る場所は外ではないため適当なエキストラを見繕う事もできない。
折角だからテレビをつけようかとも思うが、そこまでいちいち手を焼くほどつまらない訳じゃない。
しかし、明日も彼に逢うんだろうか、なんてふと思ったら凍っていた心が鳴り響いた。

…これは、楽しみにしているのか?
それとも、なんだろうか。
だが、そんな事を考えた所でどうせ明日には出会えるはずもない。
別に連絡先を互いに交換したわけじゃないし、それに偶然の出会いと言ったらあくまでもあれはただの偶然なのだ。
どちらかが気付かなかったら気付かないくらいの一寸した事で、明日には逢えるかどうかなんて本当の所はわからない。

……やっぱりテレビをつけよう。
そう考えるが早いか否か、華南は机に置いてあったテレビのリモコンを取って適当な番組、人々が大勢見えるような街角生中継番組に映した。

がやがやと笑う人々の顔を見て、珍しく華南はホッとする。
そしていつもよりもやや陳腐な妄想設定を作り上げて、さっさとエキストラを配置し無理矢理に妄想世界に入っていった。
先程まで考えていた事を打ち消すように。

次の瞬間にはもう何事もなかったように、彼の事を忘れ去った。
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