夢絆

□無理矢理ハイテンションその後下落
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「ずばり私と彼の出会いは、運命と言って相違なかったと言うわけだよ我がフレンド!!」

「……へー。」

興味なさ気にお弁当を黙々と食べる友人の隣で、付き合ったばかりの彼の惚気と自分の愛の深さを長々と語るこの自分。
華南はベンチの上に座って、というよりもベンチの上に足をかけて、先程から何度言ったかわからない自慢を彼女に更にぶつけた。

「だって初対面でだよ!初対面で!初対面で私の事を好きになってくれるとかなにその目と目で通じ合うシンパシー。
運命だよ!これ絶対マジ運命!運命でなければ、私の強運!!」
「なんで強運?」

あの時の出来事は今でもまだ自分は猛烈に感動している。
なにせ今までこんなに熱く滾って好きになった人なんて、彼以上に存在はしない。寧ろ、彼が自分の中で最高値なのだ。
怒涛の勢いで興奮して語る自分に、呆れているような彼女だったけれども、きちんと話を返してくれる際には箸を休める。

「あれからメアド交換して彼にメールしたらきちんと返って来てくれたし、電話したらすぐに出てくれたし、もうマジで私の事愛してくれてるじゃん?って感じで幸せで幸せで…!」
「でもさ、上手い話過ぎない?」

流石に自分でも思った事を、誰かに言われるとちょっと胸に来る。
うぐっと一瞬言葉が詰まるも、なんでもないフリをして「なーにがー?」と訊ねてみたりする。
すると彼女は無機質な空疎な瞳に自分を映し、息を吐くように答えた。

「だってたった一日で出逢った女にそんな風に全力受け入れ態勢取るもの?普通はOKするにしても、もう少し距離を置くとか…ちょっとはぎくしゃくするんじゃない?
って言うか大体、受け応えが凄く胡散臭くて手馴れてそうで気持ち悪い。」
「ちょ、人の彼氏を気持ち悪い言わないでちょーだいなっ。」

そうおどけてみせたものの、実の所彼女が冷静に言った前者の言葉がぐさりと胸に突き刺さっていた。
彼女のいう事はもっともと言えばその通りである。
確かにOKをしてくれた事に浮かれてはいたけれど、後から考えたらあんな色男が本気で自分を受け入れてくれた事にちょっと疑わしい部分はあった。

「付き合って次の日、電話は?」
「え?」

すると、そんな此方の不安を感じ取ったように完全に箸を置いて、彼女は弁当から自分に意識を向ける。
いつになく真顔で此方を見てくる彼女に自分は戸惑いながらに口を開く。

「あ、…あーっと次の日は連絡取れたよ?もうばっちラブラブに!」
「じゃあその次の日。」
「次の日は、朝一回メールしたけど返って来なかったかな…あ!でも駅で逢えるし、実際逢えたし、その時きちんと携帯電源切ってたってわかったから…」
「じゃあ昨日は?」
「夜……に、その、電話をかけてみたけど、なんか電話が通話中で…でも今日の朝逢えるからいいっかなーって…実際逢えたし!」
「じゃあ、今日は?」
「…今日は、メールも、電話も帰ってこない、けど…多分電源切ってるんじゃないかなー。」
「多分?」
「いや、今朝はまだ逢えてなくて……あ!多分遅刻しちゃったとかそういうのだよきっと!うん、そうだ!!」
「じゃあ、出かけた事、デートっていうのはある?」
「…………がッ、」
「学校に行く前の通学路とかはなし。」
「…。」

真剣な彼女の質問責めに少しばかりたじろぐも、なんとか総て答えきる。
彼女は今朝の出来事を聞き終わると、僅かに考えるように首を傾げて次には冷たい瞳で此方を射抜いてきた。

「はっきり言って、変。それ。」

容赦なく告げたその一声にがーんっと頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。

「な、ななななーっ、何を言うかねマイブラザー!私の彼氏を変って言うとか幾ら君でも許さんぞ!」
「私は変とは言ったけど、君の彼氏を変って言った覚えはない。」
「…う…」

涼しい友人の口振りに、墓穴を掘ったことに何も言えなくなってしまう。
彼女はちらりと自分から眼を逸らして再び弁当に箸をつけ始める。
言いたいことを終えたらしい彼女の合図に何も言えずにぎりぎりと奥歯を噛み締めた。

「…ふ、完敗だよ…そうだよ、本音言うと私自分でもなんか可笑しいと思ってるよこの付き合い方…。
なんかおままごとと勘違いされてるような付き合い方って言うか、なんか振り方がわからなくて、そのままこっちが満足していつか離れていくように仕向けられてる感じがするって言うかさ…」

ふう、と自分は椅子にかけていた足を外して、彼女の隣にすとんと座る。
本音を言うとちょっと怪しいと思っていた事があると彼女にぼそりと吐露すれば、彼女はもぐもぐとしていた口を一旦止めた。

「…らしくないな。いつもなら相手の迷惑お構い無しにがんがんといくくせに、そんなに凹んだりちょっと躊躇したりしてるとか。」
「失敬な!私だってたまには凹むさ!」

むすっとして彼女にそう言い返すも、実の所いつものような強い押しが今の彼には出来ない事に少々考え込んではいた。
だがこれも運命の相手だからこそなのか、と考えれば変に納得してしまう馬鹿な自分が居たりして。
するとそんな自分が悩んでいるのを察したのか、ふうと一つ息を吐いて「そんなに気になるなら遊びに誘ってみたりすれば?」と彼女が提案する。

「デートに誘ってみれば、相手の気持ちの一つもわかるんじゃない?本気か否かとか…。」
「……うん、そっか、遊びにか…さ、誘っても大丈夫かな?」
「彼女だったらいっちょやってみい。」
「…そっか。そだね、私らしくないねえ!よし、フライドチキン味のかに玉で勝負してくる!」
「おー。」
「でも今日連絡取れなかったら明日の朝に誘いかける!」
「……頑張って。」

案の定その日は連絡がつかず、結局次の日の朝に彼に誘いをかけたら、次の日曜にはちょっと用事があるからと断られた。
また次の時にお願いしたいな。と笑顔で言われて額に口付けされたので、しょうがないなあ。と許した。というかもうそれだけで愛されてるって幸せになったからもういいやって全部吹っ飛んだ。

けどたまたま漫画を買いに出かけた日曜日に、とある喫茶店で我が彼氏が元カノ集団に責められている様を目にするとは思いもよりませんでした、まる。

◆喫茶店の窓からずっと見てました。


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